大須賀覚先生に会う

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がんを研究する人の大半は、じつは、直接自分でがんを治すことは考えていない。自分の研究テーマが、めぐりめぐって、誰かに応用されることで、最終的にがんを治せたらいいなあ、くらいは考えているだろうけれど。

そもそも、がん研究ってそんなに単純じゃない。

がんを知るためには、がんではない正常の細胞のことも知っておかないといけないし、人だけではなく他の動物のことだって調べておいたほうがいい。がんとは異なる病気、がんと関係なさそうな遺伝子、がんに直接つながらないような研究であっても、それがいずれ、がんを知るためのヒントになったりする。また、がんを調べると言っても、がんになるきっかけであるとか、転移のメカニズムであるとか、がんと戦う体内の細胞についてのことだとか、切り口は膨大だ。

「がん研究」の射程は、広い。

だから「がん研究者」も、自分の研究ががんを治療する役に立つかどうかなんて、あまり気にしない。無数の人がよってたかって、がんとその周囲を少しずつ明らかにしていくことで、複合的に、暫時的に、がんの克服というのはなされていく。

自分の研究と、がんの治療との距離が近いか遠いかなんて、さほど大きな問題ではないのだ。本人にとって熱心に打ち込めるテーマでありさえすればいい。そういった研究が無数に集まって、伽藍のような「がん研究」がそびえ立つ。

「がんを治すために研究者になった」という人の大半は、えらくなるにつれて「がんを治すこととは直接むすびつかないかもしれない研究」をする。

と、いう、現実を、私は知っている。

だからこそ、大須賀覚先生のお話を聞いて、とても驚いた。

彼は、「むかし臨床医をやっていて、治せないがんがあることが悔しく、がんを治したいと思って研究者になった」。

そして、なんと、今も、「がんを治すための薬を直接研究している」のである。

ずっとモチベーションが一貫している。方向がぶれていない。

このパターンはそんなに多くないと思う。

すごいですねと伝えた。すると、

「それくらい強いモチベーションがないと、がん研究はしんどくて、大変で大変で。」

と言って、大須賀先生は笑った。

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