with AIの衝撃 さとなお✕病理医ヤンデル

医学界新聞 インタビュー

この日私は東京にいた。

コミュニケーション・ディレクター、さとなおさん(佐藤尚之氏)と会うためである。

がらにもなく緊張していた。

さとなおさんとは何度か顔を合わせたことがあるが、それでも、だ。

彼の前ではうそがつけない。

さとなおさんは、言葉だけで飾っていることをすぐに見抜く。

私のような、「歩く粉飾決済」みたいなタイプの人間は、彼の前では丸裸にされてしまう。

 

***

 

2010年代、SNSがもっとも華やかで、Twitterが一番たのしかったあの頃、タイムラインを賑わわせていた多くの「企業アカウント」が受講していたオープンラボがある。さとなおさんは、そのラボの主催者であった。

彼の唱えた『ファンベース』。衝撃だった。SNSを使って自分たちのコンテンツを多くの人に届けたいと考えていたごく一般的な「企業公式」たちは、おそらくみな影響を受けただろう。

「広告的なやりかたでは、たくさんの人に広く浅く見てもらうことを目指しがちだけれど、『ファン』との関係をじっくりと深めていったほうが、売上も、価値そのものもよくなっていく」

さとなおさんの言葉は、商売っ気にまみれてSNSを使おうとしていた私たちに、やさしく諭すように響いた。

 

ときは流れて2021年。感染症禍が猛威を奮い、SNSも次第に変質していく中で、私は、「医療情報をやさしく広げていくための試み」について試行錯誤を続けていた。そんなある日、あるイベントを通じて、さとなおさんと出会う。

その後、私たちは、

「患者にとって大切で、かつ、医者が見過ごしがちな情報を提供するアプリの開発」

を、ひそかに進めた。

その取り組みは途中で頓挫してしまう。でも、いつかまた、なにかできるかもしれない、という期待だけは、薄くぼんやりと、でもしつこく、持ち続けていた。

 

2026年6月13日(土)。私は書籍『がんユニバーシティ』の販促という表向きの理由をひっさげて、医学書院の担当編集者たちをまるめこみ、さとなおさんの元にやってきた。

なあに、ちゃんと『がんユニ』の話もしますよ。

そこからの1時間半、あっという間にトップギアで興奮した私たちの口からは、がんユニの販促の話なんぞ、一言たりとも出るわけもなく―――

 

 

※このエントリは、「医学界新聞」2026年7月14日号に掲載されたインタビューの「文字起こしデータの全文(編集する前のやつ)」です。

 

 

 

出会いの印象は

―――(市原)2021年に,「メディカルジャーナリズム勉強会」が開催されました。「どうやったら医療情報をもっとよく伝えられるか」という趣旨のセッションで,佐藤さんと若尾(文彦)さんがお話をされ,それを私は間近で拝聴しました。佐藤さんと若尾さんが,セッションの最後に握手したんですよ。「これから頑張ろうね」と言って。ずっと覚えています。若尾さんは,国立がん研究センター(国がん)の「がん情報サービス」をずっと作ってきた方で,私たち医師からすれば,「医療情報業界の星」なんです。そんな先生が,握手をしながら,「僕,ずっとさとなおくんに怒られてるんだよ」って言ったんです(笑)。

怒ってるわけじゃないんだけど(笑)。中学生の同級生だからなあ。

―――若尾さんは,がん情報サービスについて,「最初,患者さんやそのご家族の方から『こんなんじゃ分かりにくい』ってすごい言われた。さとなおくんにもいろいろ教えてもらって,少しでも分かりやすくなるように直してる」っておっしゃいました。若尾さんが頼るくらいすごい方なのか,と感じたのが佐藤さんの第1印象でした。

なんて怖い人だと(笑)。医学界の星を怒るなんてね。

―――若尾さんがすごくニコニコと言うんですね。良いご関係なんだなと思いました。

どうなんでしょうね。中学の時は,大して仲が良かったわけでもないんですけどね(笑)。

 

ロジカルに詰めてくるおじさんって一番嫌われる

―――その後,佐藤さんは,若尾さん,尾阪(咲弥花)さん,市川(衛さん),私などと一緒に,医療情報を届けるためのプロジェクトをはじめられました。途中で,私たちがやりたかったことをAIが猛然と追い抜いていくような形になり,プロジェクトは途中で立ち消えたんですが,私の中ではずっと,あのようなお仕事が1つできたらいいのにな,ということを思っていました。あのとき佐藤さんが,医療情報を届けるためのプロジェクトをはじめようとされたのは,なにかきっかけがあったんでしょうか。

もともと,お医者さんの方々はお忙しいし,情報発信が専門ではないですよね。医者って成績で言ったら「クラスの上から5人」なわけですよ。頭が良い。しかも大学とかでロジカルに訓練されている。上から何人かの成績優秀者で,理系でロジカルに思考できるように訓練された人たちの集まりです。クラスの残りの35人っていうのは,そういうロジカルな訓練もされておらず,文系も半分ぐらいはいる。まあ,文系理系に分けるのはナンセンスだとは思いますけど,でも,医者は,基本的に情報の出し方がロジカルすぎると感じています。

―――ロジカルすぎる。ロジカルって言葉がネガティブになるんですね。

がん患者になったらこっちは「感情」だから。感情のところに理屈を出されるのは,よかれと思ってやってらっしゃっていても,少し違う。医者は成績優秀者でロジカルな方々同士で付き合っているから,ロジカルっていう共通言語で分かり合うじゃないですか。そこについていけない人たちが患者には山ほどいる。僕はかなりロジカルなほうだけど,がんになってしまったら,ロジックで詰められてしまうと,多分気持ちはついていけない。急になった場合は特にね。

もちろん,医者の方々も現場で常にロジカルであるわけではない。患者を前にしてすごく優しい方もいらっしゃるし,この『がんユニ』を読んでも,皆さんナラティブかつすごく優しい方々だし,素晴らしいんですけど,いざ情報発信をしよう,誰かに何かを伝えよう,分かりやすく伝えようとすると,全部論理で行きがちですよね。

―――論理でいきますねえ。

わかりやすくイコール論理だと思ってるんと思うんですよね。小学生でもわかる論理,みたいな。でもコミュニケーションってそういうことでもない。まずその前提が共有されていない状態で「サイトにわかりやすく出そう」とか「国がんでこういうの出したらみんなわかるんじゃないか」となる。というか,医師が正しいことを言うっていうのは,必ずしも患者にとって正しくはない場合もありますよね。

例えばニンジンジュースが効くって思って幸せなら,それでもいい人もいっぱいいると僕は思っています。や,偽情報ですよ。エセ医療だけど。でもスティーブ・ジョブズですらニンジンに頼ったりもしたわけです。超ロジカルに考えられる人でもね。そういう感情の振れ幅が患者にはある。

僕は広告コミュニケーションを生業としてきたのですけど,大事なことは,「こちら側が何を伝えたいか」ではなくて,「相手側に立つこと」なんです。伝えたい相手は誰で,どういう状態で,どう思っているか,が大切。

たとえば,伝えたいことを一方的に言うおじさんって嫌われるじゃないですか。ロジカルに詰めてくるおじさんって一番嫌われる。医者同士みたいなロジカル同士だとそうでもないかもですが,たとえば家族だったら,父親がロジカルに妻や子供を詰めていくと嫌われるじゃないですか(笑)。「そういうコミュニケーションは良くない」って,みんな知ってますよね。なのに,医者はこれまでそうしてきたと思うんです。そこは変えていった方がいいよね,って若尾君に話しました。彼はいったん「そうだね」って言うんだけど,周りに医者しかいないしそういう訓練をされているから,「いや,だけど,これがわかりやすいんじゃないか」なんて言う(笑)。

若尾君たちとのプロジェクトのときは,「感情から一回読み解いてみよう」ってやってみたんですよね。

―――そうでしたね。病気とか論理からコンテンツを作るんじゃなくて,患者さんの声からスタートする「チャート」を作っていきました。

感情のスタートラインに立って,気持ちの変遷を追うイエスノーチャートを作っていって。チャートを辿っていくと,最終的には何かの医療に接続できるような。

―――患者を,医療サービスまで連れてくるまでの,その途中の会話・やりとりを大事にしたんでしたね。

患者のメンタルをちゃんとキープしながら,医療に連れていけないかっていうことですね。コミュニケーションのことを普段から考えている人間と,がんの情報のトップが同級生だった。なら,僕たちは一緒にこれをやった方がいいんじゃないかってなったんですね。

 

見てみぬふりをしてこっちでサッカー見てるとかじゃなくて

―――1人の医療人として耳が痛い話です。ただ,若尾さんと同級生だったからといって,実際にそこをこじあけよう,なんていうのはかなり強いモチベーションだなと思います。必ずしも儲かるような話でもないですし。それは佐藤さんの性格ですか?

性格ですね。僕が長くやってきているのは「伝える仕事」です。儲かる儲からないとか,自分の領域であるかないかとか関係なく,「伝える仕事」界隈であることならとりあえず関わろうとするところがあるんです。

だから,医療だけじゃなくて,東日本大震災の災害支援でも動きました。僕は阪神大震災の被災者で,情報は水とガスと同じぐらい大切なライフラインだとわかっていたんです。「どこに逃げるべきで,どこに何がなくて,いつごろ電気がつくの?」って情報はライフラインですよね。伝える仕事をずっとしてきた僕が,みんなが「情報がなくて困っている」というのを見て見ぬふりをしてこっちで楽しくサッカー見てるとかはやっぱりおかしい。人生的に一貫性がない。あんな大きな災害で『情報支援』に動かないって,それって人生的にどうなのかとか思った。

同じように,自分がアニサキスアレルギーになったらなったで,あまりにみんなが知らないなあ,と。あまりにマイナーなアレルギーだなぁ,と思って。

―――ご自身がアニサキスアレルギーになられた時,世の中にすでにあった情報サービスにはご不満がありましたか。

いや,何も情報がなかったんですよ。アレルギー科の専門医も知らないくらいで。でも,最近は,アニサキスアレルギーの人というのはどうも四,五百万人いるらしいってわかってきているようです。小麦アレルギーの次,くらいはいるという説もある。

とにかく,当時はネット上に情報がほぼなかったんです。ああこれは,伝える仕事やってる僕が患者になったんだったら,やっぱり伝えないといけないということで,一般社団法人を作って発信をし始めました

―――アニサキスアレルギー協会ですね。ご自身が代表を務められている。同じようにアニサキスアレルギーにかかった方や,そういう方にお食事を提供する家族,お店の人などのための情報がたくさん載っていますね。

アニサキスアレルギーのことはみんな知らないので,情報を求めて入ってきます。でも,情報をわかりやすく整理して出すだけでは違うと思いました。なにしろ魚介類やダシが食べられないという「日本人としてのQOLが下がりまくるアレルギー」なので,もっと患者のつらさによりそったコンテンツにした方がいいと思いました。で,対談をコンテンツのど真ん中に置いたわけです。患者と医師,患者と東京海洋大学のアニサキス研究者,患者同士の対談とかをメインコンテンツにして,患者の気持ちと専門家の知識を掛け合わせようとしました。

患者会とか学会のサイトって,だいたい事実の羅列みたいな感じになってきます。どうしてもロジカルになってくる。ロジカルの良さはあるんですけど,私がやるからにはちょっと共感寄りに作っていこうと思って。手弁当の手作業なので,まだまだ未完成なんでお恥ずかしいのですが。

―――手作業なんですね。すごい。

でも,AI時代になってくると,「人間にはわかりやすいコンテンツ」がAIにはわかりにくい,という場合が出てくる。共感寄りにしたことによってAIが読み違える場合がある。患者がみんなAIに尋ねるようになるなら,今後はもっとAIに読みやすく,AIが正しく把握できるサイトであるべきですね。

―――AIの話が出ましたね。そこ,ちょっと詳しくお伺いしたいです。

 

ナイキとかはもう眼中から消えてるわけですよね

―――情報を探しにくる人にとって,共感を提供する対談ベースのホームページは,すごく分かりやすいと思っていました。そこに「AIが読みにくる」ことを考えられているのですね。

もちろん。もうAI 時代一秒前ですから。

―――AIが世の中にある情報を集めていく中でホームページを「誤読」するんでしょうか。

ちょっと前提に戻りますね。AIの話をすると,たいていの医者は,自分がAIをどう使うかということに興味があるようですが,そこはじつはあまり関係ないんです。患者を見るべきですね。患者は何か病気になったらAIに聞く時代になります。

―――ちょっとこの間までは「ググる」と言ってましたけど,今はAIに聞く。

AIで武装した患者が医者の前に現れる時代が来るわけです。医者が診察して説明しても,「いや,うちのAIはこう言ってますけど」みたいに言う時代がもう来ているわけですよね。そして,ひとりの医者よりもAIの方が知識がある場合が多い。どうやっても勉強してもAIには追いつかないですよね。特に複合的な病気の場合なんかは。だってAIは最新の論文を全部読んでますからね。

―――そうなんですよね。僕も毎日使っていますけど,自分で探しにいくより圧倒的に速い。

そうなんですよ。だから医者がAIをどう使うかはどうでもよくて,患者がどう使うかを考えなくてはいけない。そういう時代になると,患者はAIに聞いて病院を選ぶ。

―――個人の不安を満たす知識を得るだけじゃなく,病院選びでもAIですか。

ある病院で膵臓がんって言われたんだけど,セカンドオピニオンも含めてどの病院がいいですか? 今自分は旭川に住んでいるんだけど,どの病院で診てもらうのが一番いい? 札幌ぐらいまで範囲を広げても構わないからベストな病院を教えて?」とか聞くわけです。そうすると数秒で返してくる。そのとき,AIは3つから5つぐらいしか候補を出さないんです。100くらい候補があっても3〜5つくらいの病院を厳選して勧めてくる。

―――佐藤さんが最新刊『AIに選ばれ,ファンに愛される』の中で,3つくらいしか出していないって書かれていたのは,かなり具体的に僕を刺したんですよね。トップ3をすっと出してくる。他はAIに選ばれない,っていう。

僕が企業に講演をするときは,まずその場でデモをするんです。昨日はある化粧品会社で,その場でAIに「私は45歳の女性で,最近お肌が気になるんだけど,どの化粧品がいいの?」と聞くわけです。すると,その会社の化粧品が全く出てこない(笑)。

ほかにも,僕はいま半月板を損傷しているんですが,「膝に優しいランニングシューズで,僕にぴったりなのはどれ?」ってAIに聞く。いつも僕とよく話しているAIだから,僕の嗜好性や運動状態とかもよく知っているんです。で,AIは,HOKAとニューバランスとアシックスの3ブランドを勧めてきました。っていうことは,ナイキもアディダスもプーマもミズノもOnもオールバーズも全部落ちてるわけです。選ばれてない。そのAIは僕のことをよくわかってくれてるから僕も信頼するわけです。基本的にはHOKAとニューバランスとアシックスの中のどれかを選ぼうとなる。つまりナイキとかはもう眼中から消えてるわけですよね。

―――それは……選択にかかわりますね。

かかわりますよ。

 

病院もAIに選ばれなくなると厳しい時代

AIは企業サイトや評価サイト,使用者のブログとか横断的に調べて判断します。そのとき企業サイトに十分な情報があるかとか,エビデンスが載ってるかとか,PDFとか使っていてAIに読みにくくなっていないか,とかは重要です。たとえば「膝に優しいランニングシューズ」って言っても,どこまで優しくてどこから優しくないのか難しくないですか? 優しいって,人間はなんとなくわかるけど,AIはもっと正確にわかろうとします。

―――言われてみれば確かに,すごくファジーな質問ですね。人間らしいというか。

ファジーですよね。だから数値やファクトで載せる必要がある。素材が何でどうこうっていうのは,ただ単にメーカーサイトに載ってても普通の人は比べられないわけです。でもAIにとってはそれが重要。素材とかをちゃんと開示して,当社比でこういうエビデンスがあるとか載せてるサイトを引用するし,そういう商品を上位にあげてきます。

そういう対応をとにかく急いで「AIに選ばれる」ようにしないと,商品も,医者も,病院も,死ぬと思います。

―――死ぬというのは,患者が来ないからですか。

だってAIに選ばれない病院にわざわざ行きますか?

―――確かに……AIが選んだところがなんかでかそうないい病院だったら,とりあえずそこに行きますよね。

「膵臓がんの経験値が高い医者は誰?」「ああ,○○医大にいるんだ」みたいになる。そうするとたとえ近所でもほかの病院に行かなくなる。

―――AIはエビデンスをどうやって判断してるのですか?

インターネット上の情報の中ですね。

―――インターネット上の情報が……AI向きかどうかで判断している?

AIに理解できるように数値やファクトで書いてあるほうを選びます。ただ毎月のようにアップデートされるので,「いまはそういう傾向」としか言えませんけどね。なのでいま現在は,AIに選ばれるかどうかが死活問題です。広告出そうがなんだろうが,AIの選択には影響ない。AIに選ばれなければ,死ぬとまではいかなくてもかなり厳しくなるのがAI時代です。特に重い病気,難病系だと,AIに聞かない患者はいなくなると思うんです。

―――全くそうですね。病院行く前もそうですし,行ってからもAIにずっと聞くことになりますよね。

「先生はこういうふうに言ったけど実際はどうなの?」とかAIに聞いちゃいます。医者の言葉も全部録音されて,AIに評価させる患者も増えると思います。今,僕は病院に母親のお見舞いに行ってますけど,医者との面談中ずっとApple Watchの録音を回してますからね。医者の言うことを全部録音する。自動で書き起こしがされる。それを帰りの電車の中でAIに「ワードでまとめて」って言うと数秒でまとめが上がってくる。それをPDFにして家族にLINEで共有するまでほんの数分。そして「この治療方針をどう思う?」ってAIに尋ねる。

―――それは便利ですね。絶対やりますよ。

これからのお医者さん大変ね。っていう。

―――(笑) 今ふと思ったんですけど……医者の側は,佐藤さんがそうやっておっしゃるのを聞いても,「サイトにエビデンスをちゃんと載せとけばいいんだろ? だったら我々は得意だ」って言いそうです。

そう,得意なんですよ。

―――ただ,我々がロジカルだと思っているものは,AIが情報を渉猟するときにも本当に効果的なんでしょうか。

 

患者に優しいサイトがかえって仇になる?

そこを,僕は今研究しています。AIにリーダブルな情報とはなにか。例えば旭川にある病院が30だとすると,選ばれるのは3つぐらいで27は落ちる。そこで,病院の発信の仕方を変えてAIに読みやすくする。なるべくエビデンスを載せるのは前提として,AIがどうしてここを選んでくるのかっていうのを一生懸命研究する。どうやったらその3つに選ばれるのか? AIに選ばれるサイトはどうなってるのか? それを日々研究しています。

―――佐藤さんのご著書『AIに選ばれ,ファンに愛される』の中には,フィクションとは思えないような例が6個,7個と載っていました。AIをうまく使いこなせたバージョン,使いこなせなかったバージョンが,それぞれ小説のように書かれていましたね。あれ,失敗側で書かれたエピソードでも,「これくらいのことは普通に我々はやるよな」って思うんですよね。そんな大外ししているように見えないのに,結果的にAIに選ばれなくて,負けていく。

AIに選ばれないと買われない,AIに選ばれないと病院にも来ないということを,どのくらい切迫して感じられるかですよね。

アニサキスアレルギー協会も,もっとAIにちゃんと読まれないといけない。AIでアニサキスアレルギーのことを調べると「生魚は避けて,焼き魚を食べていいよ」みたいな誤情報がまだまだ出てくるんですよ。

―――佐藤さんが作られたアニサキスアレルギー協会のホームページがあっても,AIは間違いますか。

AIはうちのサイトもずいぶん引用するんだけど,違うサイトも引用するんです。個人クリニックのブログとか,ちょっと不確かな情報とかも入ってたりするんだけど,そういうのもAIに読みやすければ引用されてしまう。だからよりAIに信頼されて引用されるには,ちゃんとした論文とかも載せないといけない。そういう意味で言うと,アニサキスアレルギー協会のホームページは,論文のエビデンスをザーッと並べるとかしていないですね。

―――読む側,患者の側に優しいサイトを作っていたことが,結果的にAI時代では足りなくなってしまうということでしょうか。

その通りです。人間用に読みやすく作るとエビデンスとか論文とか載せると煩雑になるので略すじゃないですか。でもそういう配慮がかえってAIに読まれないサイトになってしまう。AIにより読みやすく,AIがより引用しやすく,作り替えないといけないんです。

―――となると……門外漢の私が言うのも生意気ですが,広告もまるで変わりますね。

広告で目立ってもAIには関係ないですからね。たとえば高いお金を出して日向坂46を出して宣伝をやったとしても,AIはファクトで商品を勧めるので,関係ないんです。100円,200円の商品だといちいちAIに訊かないかもですが,高い商品とか機能性商品とかはAIに訊かれる。そうなると広告は関係なくなります。ということは,広告は滅びるんじゃないの?っていうことはあの本にも書きました。まぁ「関係性を作る広告」は残るとは思いますが,認知や想起のための広告はかなり厳しくなるんじゃないかな。

 

がんユニはAIにとっては読みにくいです(笑)

―――今,佐藤さんは,冨士川凛太郎さんらと共に,「AIに選ばれるサイトづくり」のデモとして,アニサキスアレルギー協会のホームページに手を加えられている最中ですね。

アニサキスアレルギー協会で,AIが何をどう引用しているかって調べて,レポートにまとめていますね。

―――実際にAIにホームページを探らせて,どれくらい引用されるか。

患者になったら,「アニサキスアレルギーって言われたんだけどこれ何?」「アニサキスアレルギーとアニサキス症って何が違うの」とかって聞きますよね。その質問に対して,AIがどのサイトから情報を引っ張ってくるかについて,PerplexityやChatGPTはソースを出してくれます。

―――「どこから持ってきました」というのを書いてくれる。それを使えば分析ができる。

なんで引用されたのがうちのサイトじゃなくてあっちのサイトなのかとかを分析するわけです。正しい情報ならうちじゃないサイトでもいいんです。ただ,不確かな情報を出しているクリニックが引用されたりしていると問題じゃないですか。患者をミスリードする。それを避けたいんですよね。アニサキスアレルギーのことを患者に正しく知ってほしいから。

その延長線上で,例えばがんにおいてもエセ情報なんか山ほどあります。それはもう撲滅できないかもしれないってこれまではみんな絶望してたりしていたんですけど,みんながAIに聞く時代ならばやり方がある気がします。AIが正しい情報を常に引っ張ってくるようになれば,エセ情報にも勝てるはず。ちなみに,AIが信頼する場所はどこなのかというと,公的機関や学会のサイトが,普通のクリニックより信頼されているんです。

―――おっ,なるほど。

ただし,「ここは公的な学会サイトです。誰々が責任をもって書いています。こういう方針で運営されています」ということが,ホームページの一番上にある必要がある。そうするとここは信頼できるのではないかってAIが読みます。あとは,最新の論文とかを載せたりリンクしていることも重要です。ちなみに,PDFではなくて。PDFって意外と読まないので……。

―――AIは,PDFは苦手ですか?

読むんですけど,電力のリソースが足りないと読み飛ばしたりするんです。動画もです。今までは,情報サイトにはよかれと思って動画を出していましたけど,AIは動画をいちいち見ない可能性が高い。YouTubeで言えば「概要欄」にちゃんと情報を書いておく必要があります。まぁこれもAIの進化で変わってくる可能性はありますが,いまのところはそうです。

査読された論文をマークダウン方式で,構造化して載っける。そういうのはAIにいの一番に読まれる可能性がありますね。

―――構造化。AIが読みやすい順番とか形があるんですね。

そうです。(『がんユニ』を指して)こういうのはAIは読みにくいんです

―――(笑)対談ですもんね。

あ,でもよく見たらこの本も構造化はされていますね。たとえばこのシラバスを模した部分。各章の最初に,この人はこういう人である,このテーマでこういうふうなことを書いている,そして本文,みたいに構造化されていますね。ただ,AIの読まれやすさで言うならば,エビデンス・ソースを途中に挟む,なども必要になりますが。

―――読者のためによいと思って,コンテンツを物語的に書いたものの一部は,AIにとっては情報を集めにくいかもしれないと。なるほど。

 

隅から隅までFAQ

―――もし,学会や政府の公的機関の情報はAIが信用して選んでくれるというなら,医者からすると「なら我々がずっとやってきたことだから,安心,万全,もう大丈夫」って油断したくもなります。

そうですね。ただ,他サイトなどでたとえばニンジンジュースにみんながいいレビューを書くと,「体験者がこう言ってる」みたいにAIが拾ってしまう可能性があります。

―――あら。

そういうのに対抗するには,学会や公的機関のサイト上に,「ニンジンジュースが効くと言う説もあるが,それにはエビデンスは1つもありません」と言う情報を載せるのがいいと思います。相手を否定するのではなくて,「エビデンスがない」というファクトを載せておく。そのサイト自体がAIに信用されていれば,患者がAIに「ニンジンジュースが効くって聞いたけど?」と聞いても,「それはエビデンスがないということをこの学会が正式にコメントしていますし,実際にそういうエビデンスもありませんでした」とAIが答えてくれるようになります。

―――佐藤さんが本をきっかけに立ち上げられたクローズド・コミュニティがありますね。ずっと拝見していますが面白いです。その中で,AIにとっては「Q&AあるいはFAQ」が読みやすいかもしれない,と話されていましたね。

患者はAIにはまず何かを質問しますよね。その質問通りのQ&Aが載っていれば,AIはシンプルに「こうなんじゃないか」と引用する可能性が高い。

―――よくある質問をホームページにきちんと掲載していた方が,AIにとってもマッチ率の高い答えとして引用しやすいと。

それも人間用に5つくらいに絞るのではなくて,200とか300とかあってもいいんじゃないかっていうぐらい。

―――人間の読みやすさのために数を絞るんじゃなく,隅から隅までFAQを整えるんですね。

「ニンジンジュースはどうなの?」「金の延べ棒はどうなの?」とか全部書いてあるほうがいいですね。「金の延べ棒ってどうだろう?」ってAIが世界中に探しに行っちゃうよりは,この学会サイトに「それはエビデンスがない」と出ている方が,AIが読みやすいのではないかなと。まあ……まだ根拠はないですけど。やってみたらこうなるかもねっていうことを毎回ちょっとずつ研究しているわけです。AIのアルゴリズムは我々にはわかんない。いや,開発者ですらもうわからない。だから常に試行錯誤の手探りなんです。半年後には「やっぱり無理だった」とか言ってるかもしれない。今のところそうじゃないのかなと。

 

AIにとって見やすいんですか?

―――お話をうかがっていると,我々は今後,「ソリッドなエビデンスを学会のホームページにご用意しました。これで安心だ!」などとふんぞり返っていてはいけないんでしょうね。

正確な情報をウィキペディアみたいにわかりやすく出すだけで本当にいいのかというと,そうでもないんですよ。AIは1回学習し終わると興味を失ってあまり見ないので。

―――そんな飽きっぽいところがあるんですね(笑)

そうなんです。で,noteがすごい引用されるんです。

―――えっ,noteですか。あれ引用されるんですか。

(グラフを見せながら)これは日本のAIが引用するドメインの2025年のランキングデータで,ウィキペディアが1番です。noteが2番なんですよ。Xも下の方で,日経とか朝日とか全然引用されない。noteが圧倒的です。

―――いわゆる一般的なメディアはSNSも含めてほとんどないのに,noteだけがダントツですね。

もうひとつグラフをお見せしますが,横軸が検索量,縦軸がAIが引用した量なんです。これを見ると,noteは全く検索に引っかかっていないのにAIにはトップクラスに引用されている。アクセスもあまり多くなくて「いいね」が5個しかついてないような記事でも,noteはAIに引用されるんです。

―――何なんでしょう? AIにとって見やすいんですか?

独自情報と一次情報,要するに,ファンとかが独自の体験談を書いてるような記事がAIの大好物だってわかってきたんです。ウィキペディアって一般論じゃないですか。認められた情報以外出せない。そういうのはAIにとってあまり食指が動かないようです。つまりどっちかっていうと医師がやりがちなことは取り上げられにくい,ということです。一方でnoteの方は,○○病院を体験した人が「ここの先生は本当に良くて,泣くくらい嬉しかった」みたいなことを長く書いていたりする。すると,AIは「これは実際のユーザーの貴重な声である」と判断するみたいですね。AIがその書いた人の過去の投稿とかも全部見に行って,「この人は昔から書いていてやらせじゃない」と判断すれば,これは○○病院の評判であるという独自情報として引用される。

―――ちょっと油断できない感じがありますね。

 

AIが正しい情報を引っ張ってくるだけでエセ情報が消える

―――AIが今はどういうふうに情報を集めているのかな? みたいなことを,私たち医療従事者は,常に情報収集しながら微調整していかなければならないんでしょうかね。

ああ,それは無理ですよね。医者の方々にはもっと本業を集中してやっていただきたいですし(笑)。なので,僕たちのプロジェクトで,プロボノで医療情報を手助けできないかと思っています。

―――プロボノですか。それは正直とてもありがたいですけど,持続性がないような……。

そうですね。でもこれは,AIが進む時代の,ちょっとした実験でもあるんです。僕としては,医療業界の発信物を実験台に使わせてくれないかということです(笑)。

―――なるほど。医療の領域がモデルケースとして注目されるならば,それはとてもありがたいことです。

AI用にいじらせていただく,ということですが,どうやったって改悪にはならないですからね。内容を変えるわけじゃなくて,エビデンスの掲載本数を増やしたりQ&Aを増やしたりして,AIにより読みやすくしますよ,ということをやるわけです。ただ,実験台と言っても,ベストがまだ全然わかんないし,多分一生わかんないんですよね。試行錯誤しながらいじらしてくださいということですから,お金をいただいての受注はできないなと思っています。

まあ,いずれはちょっとだけ補助をいただけたらうれしいですけどね。それで専業的に対応できる人を雇えるかもしれないので。

―――私はいくつかの学会のホームページ関連委員だったり,教育・広報絡みの委員だったりするので,そういう経路からある程度了承を取っていくことは可能だと思います。いくつかの学会の情報整備を,佐藤さんたちにお願いしてみたいですね(註:記事制作の最中に話がどんどん進み,医学界新聞の記事公開直前にプロジェクトが始動した)。その過程を通して,情報のよりよい扱い方が医療界に広まっていったらいいなと思います。

僕もそう思います。まず何かの病気になったらAIに聞く,AIがまずは正しい情報を引っ張ってくる,これだけでエセ情報が消えているわけです。エセ情報が存在しなくなるわけじゃないけど,AIに取り上げられなくなると実質消えていくに近い。そういうことがもしできれば,それはとても良いことかと思います。

ここ(医療)でそういうことができたら,次は災害業界。災害でもデマがいっぱい飛ぶんで。AIが正しい情報を引っ張ってくることで,何かできるんじゃないか。

あと,そういうサイト,日本語で出そうが世界中に伝わりますからね。AIは何でも読めるんで。アメリカの患者が情報を探すとき,「なぜか日本のサイトばかりひっかかるなぁ」なんていうような状況になるくらい,ちゃんとできたらいいなと思っています。ビジネスにできたらもちろんいいですけど,ここで儲けようとは思っていないですね。

 

ロジカルにやったらAIに勝てない

ちなみに,これ知ってますかね? インターリンクっていう会社のトップページが今こんな感じなんです。AI用に構造化している。(PC画面を見せる)

―――正直,人間にとっては全く見やすいサイトではないですが……。

人間用には別にビューワーを勧めています。本体にはAI用の細かなお知らせがあって,サービスも価格も含めて全部説明してある。人間向けだったらちょっとかっこいい動画が動いたりするけど,そうじゃない。これはレンタルサーバーとかやってる会社だから,人間なんか見に来ないと思ってるんですね。AIに読まれてAIに勧めてもらったらいいとわりきっているんですよ。

―――面白いですね。そういうふうに,広報・広告のありようを変えていっている企業がすでにあると。

で,そういう対応を怠る病院はつぶれていくんじゃないか,と危機感を持つわけです。

―――そういう話につながっていくわけですね。

旭川の残りの27の病院はお客さんがだんだん来なくなるかもしれない。

―――候補として出てこないからですね。

じゃあどうするか。僕の本で言ったら「ファンルート」になるわけです。「ファン=指名顧客」なんですが,たとえば,「AIが何を進めようが,俺はナイキを買いたいんだ。ナイキの中で膝に優しいのが欲しいんだ」っていう人がいるの,想像がつきますよね。それはファンであり指名顧客です。そういう人はAIにすら聞かないでお店に行く。「俺はシューズはナイキに決めてるから」って。

病院の場合,ファンって言い方は違うと思うんですけど,指名して「自分はあの病院が好きだ」「あの先生に診て欲しい」と言うのが指名顧客なわけです。AIの選択肢に出てこなくても関係ない。あそこで診て欲しいし,あそこに入院したいし,あそこで看取られたいっていう。

―――病院がAIに選ばれるかどうかとは別の視点ですね。新たな生き残りの戦略として,「あの病院を頼りたい」という個人の強い思いを喚起するようなシステムを用意するということでしょうか。

システムというか,それは多分,共感とか感情とか寄り添いなんですよ。

―――ああ,ロジックじゃないんですね。

ロジカルにやったらAIに勝てない。AIに選ばれないなら感情の方向に行って,どうやったら患者がずっとここにかかりたいと思うかを考える。そういう病院になっていかないと生き残れなくなる。

―――ということは,「物語的なものはAIに選ばれにくい」とは言いましたが,語ることをやめてしまうのも,違うと。

AIに選ばれるように対策をした上で,対談コンテンツを置くなら全然OKだと思います。「人間用にはナラティブ」というわけです。アニサキスアレルギー協会のホームページにも,対談は残すんですよ。ただし,ページの上のほうにはAI用の情報をいっぱい出す。それが少し人間に読みにくいんで,どうやって見せるかを今考えている最中です。

―――現在進行形ですね。

現在進行形がここから10年も20年も続くって話だと思います。アルゴリズムがわかんないし,AIも日進月歩で進化するから。

―――もう止まらないんですね,この流れは。となると我々も持続的な体力を持ってそこをやっていかなきゃいけないですね。

そして早くやらないとね。特に病気の場合はみんながAIに聞くじゃないですか,ちょっとした大病にかかったら。僕だって半月板のこと随分聞きました。あの病院でいいのかな? ってことも聞いたし。

AIで武装した患者を前に医者はどうするか,AIで病院が選ばれる場合に病院はどうするか。大きく2つ。で,残念ながらAIに選ばれない場合は,「ここに診てもらいたい」っていう患者の思い,つまり既存のお客様がいかに満足してくれるか,愛を持ってくれるかっていうところが多分キーポイントになってくると思います。

―――愛を持ってくれる,か……。

病院や先生にね。

―――AIじゃなくて,愛を。だから書名が『AIに選ばれ,ファンに愛される』なんですね。

 

載せました

今はたまたま旭川なんとか病院が選ばれているとしても,明日にはわかんないんですよ。あと,ChatGPTとGeminiでは勧めてくる病院も違うし,Claudeも違う結果になっちゃったりする。そういう意味で,AIに選ばれ続けるのは修羅の道です。だから,固いラインとして「指名顧客」のルートは絶対考えた方がいいです。AIに選ばれ続けるかというのはすごく不安定なんです。

―――AIだけ見続けるというのも違うんですね。

そう。ただ,まずはAIに読まれるよう,AIが分かるようにするのは重要。AI時代の基本お作法になります。

―――がん情報サービスとか。

そう。若尾君に連絡しなくちゃ。権威とか信頼性をAIはちゃんとわかると思うので有利だとは思いますが,あのサイト,人間に読みやすく改善しているけど,1個1個エビデンスとかQ&Aつけたりはしていないですよね。そこをAI用にしていかないと,エセ情報が先に取り上げられちゃうこともなくはないかと。

―――若尾さん,この医学界新聞の記事を読んだ瞬間に始めたいって言う気がしますけどね(註:始めたいとおっしゃいました)。

どうかな,もうお互い65歳だから「やめようよ」って言う可能性はある。

―――やりましょう。刺激的ですし,油断もできないですし,面白い話だな思います。

ところでこれ,6千字じゃまとまらないよね。

―――何らかの形で全文を載せられないかは後で交渉します(註:無事交渉が通りましたのでこうして全文載せました)。

 

インタビューの中締め(締めるとは言ってない)

一応,インタビューの中締めをしますね。まずは私から。佐藤さんの本の中でやっぱり印象的だったのは,B to C (Business to Customer)がB to C with A (AI)になるっていう……。

や,B to CがB to A (AI) with Cになる。

―――失礼しました,Bの先は「A」,with,「C」なんですね。AIが矢面に。

例えば僕が,膝が痛いから膝に優しいランニングシューズって探した時に,B to Cで情報をいっぱい受けてからAIに聞くっていうことはもうしなくなりますよね。最初からAIに聞く。なので,B to CがB to Aになるんです。医療でいうとD (Doctor) to P(Patient)がD to A with Pになるわけです。

AIがなかった時代は,まずD to P からD with Pの方向に行かないといけなかった。D to Pで一方的にロジカルにじゃなく,ちゃんと寄り添ってwithにならないといけない。それがファンルートです。そして今後,D to Aの時代が来るならば,A (AI)にちゃんと伝わるようにしないといけない。

―――そのメッセージは強力ですね。これを読んでくださる方は医療業界の方が中心かと思いますが,医学生も読んでますし,オンラインで拡散されると医療に興味がある人が結構見にくると思います。そういう方々に向けて,今日のお話のまとめをいただけますか。

特に賢い医者の方々は,自分がAIをどう使うかばっかり見てるけど,本当に患者がAIを使う時代になると全部仕事が変わりますね。

―――医者は自分が使う本ばっかり買ってますけどね。

でしょ。でも,そこはどうでもいいです。もっと患者を見てほしいです。患者がAIを相棒にして,医者より知識のあるAIと相談しているわけです。ナフサがなにかも当然知っていて「医療用手袋が足りなくなるかもしれない」ってこともAIはわかっていたりする。患者がそういう専門的な話を医者に振ってくる時代です。

―――この間,AIに気を遣われましたよ。「最近大丈夫ですか」って。なんかこいつアップデートしてんな,みたいな。

患者側はそういうAIを相棒にしているわけです。まず診察は変わりますよね。病院の選ばれ方も変わる。特に大病,難病系は必ず変わると思う。

―――我々は,実際に自分のところに来た患者さんで頭がいっぱいで,病院にやってこない人のことを考えるのがそもそも苦手なんですよね。そこがいつのまにか変わっているっていう話は恐ろしい。

 

機種変で変わる

もう1個恐ろしいのがあるんですけど。

―――まだあるんですか?(笑)

学生が全員AIを使って就活やってるんです。「給料が良くて福利厚生が良くて旭川にある病院」ってAIに聞くわけですよ。(そうすると30のうち)25から27は選ばれなくなる。3〜5個しか推薦しないんで。そうなると学生が来なくなる病院が増えてくる。そういう業界がいっぱい出てきています。

―――そうか,そこは一般的な就活と同じですね。

看護学校の場合なんかは,少なくとも看護業界に入ると決めてるわけですが,医療業界が選ばれなくなるっていうことはある。

―――「まだあるんですか?」なんて言っちゃいましたが,これはありますね。

就職は自分の一生に関わりますからね。学生は全員,絶対AIと話してる。人事はすっごいビビってます。サイトに「うちの組織は人に優しい」って書いてあっても,何がどう優しいかエビデンスとともに書いてなかったら,AIには選ばれないです。

―――だいぶ核をつかんだお話ですね。そうなんですね。

サイトに「人に優しい」って書いてあるのに,他のサイトには「この会社は離職率が高い」とかデータがあったりすると,「この会社は信頼できません」とAIが判断するみたいなこともある。

―――うわ,矛盾を指摘できちゃうんですね。

あと,僕は環境問題について,よくAIと話しているんです。すると,「尚之さんは環境問題に関心がありますよね。だったらA~C社の中ではB社が地球環境のことで一番活動しているのでB社をお勧めします」みたいなことを言います。これがたとえば,ジェンダーの話をずっとしていると,「この中ではこの病院が一番,女性役員が多いです」とかっていうところを引っ張ってきて勧めるんですよ。

―――そうか,AIの使用者が,他の話題でAIとコミュニケーションを取った内容を用いて,おすすめの内容をどんどん変えていくんですね。

僕にぴったりなように勧めてくるし,それ以外のこともいろんな情報を引っ張ってきて判断してくる。まあ恐ろしいですよ。

病気のことや病院選びといった患者向けの情報,そして就活生向けの情報。対応しなかったら本当にヤバいと思います。待ったなしです。

―――団塊の世代の方々の,大きな塊が上に上がっていく中,加えて少子化が進んでいる今,我々あるいは下の世代の医者は余るだろうと言われていて,そこにさらに選別がかかるんですね。とはいえ危機が来るのは30年後でしょうなんて,まだちょっとぼやっとしてたんですけど。

今はまだ,AI使ってない人もいますよね。世の中に。でも,日本人はスマホの機種変で変わるんです。iPhoneもAndroidもAI推しになってるじゃないですか。多分一気にAI携帯になるんです。

―――ああそうか。検索とかも,環境がAIに。

イーロン・マスクをはじめ,何人もの人が,アプリのアイコンがなくなると言っています。いちいちアプリのアイコンをタップして立ち上げて検索して買うっていう時代から,「AIにまず聞く。そしてAIがアプリを横断して選ぶ」時代に変わる。具体的にどういう形になるかはわかりませんが,全ての入り口がAIになるようにすぐなるだろう,と。

―――となると,今,AIは使わない,俺はAIやってないという人も,スマホの機種変のタイミングで。

日本人の場合は一気にいくかもですね。ハルシネーションも本当に減っていますし。この変化に対応しないで寝てると凍死しますよ。

―――われわれは寝ている場合ではない。

 

AIを信用するっていうことを前提に

どうやったら情報が選ばれるか。医療が一番大事だから一番初めにやろうと思ってるんです。2番目は災害関連だと思っています。

―――パブリックですね。

繰り返しになりますけど,エセ医療情報を駆逐できるかもしれないじゃないですか。だからやる意味がある。

―――ちなみに,これ多分文字数的に間違いなくカットするんですけど,昨今の問題は市販薬かなあと思っています。精神科の松本俊彦先生などが,市販薬に含まれている成分がかなり患者の体にとって負担が大きいっていうことに,警鐘を鳴らされているんですけれども。製薬会社は市販薬について,かなり潤沢な情報をホームページ上で載せています。すると,「風邪だった時に薬局で買える薬だったらどれがいい?」っていう質問に関して,AIはトップ3を出してきますね。でもそこに,「市販薬飲むな」っていう選択肢はなかなか上がってこないんじゃないかなと思いました。病院にアクセスする手前の人たちが使っている医療へのアプローチです。ここは,我々が多分苦手としている可能性があります。医療系の学会あたりが,医療の情報提供をどれだけ鋭くやっても,自分で自分の体をなんとかしようっていうところの話,ロキソニン薬局で買えるよねとかルルが何錠買えるよねとか,さらにいえば「市販薬の濫用」みたいなところはカバーしづらいんですよ。

そこは……我々がAIに頼ることで,是正される可能性はありますね。

―――そうですか? 是正されてほしいけど,製薬会社がうまいことAI対策したホームページ作るんじゃないかな……なんて,ちょっと思いました。

AI側に立ってもらうとわかるんですが,売ろうとしている製薬会社と客観的にやっている学会だったなら,AIは学会を信用する可能性が高いんですよ。この市販薬が全部ダメなわけじゃなくて,この中に含まれているこの成分が腸を痛めているかもしれないとかっていうエビデンスがもし何かあるのであれば,それの論文とQ&Aも含めたことをちゃんと出して,学会が警鐘を鳴らす。そこまでやれば,AIが拾ってくれる可能性が高いです。

―――そうか。そういう意味でも,AIを活用すればいいのか。

AIを信用するっていうことを前提に,そういうふうにやっていく方がいいですね。

 

声かけました

―――なるほどなあ……。今の話は最近すごく考えていたんですけれど,やっぱり自分1人で考えているのと,佐藤さんとこうしてやりとりしながら考えるのとでは,深さが違うんですよね。深度の深い答えをいただいた気がします。引き続き色々と教えていただければ。

恐縮です。でも,本当にちゃんとやりませんか,こういうプロジェクト。

―――やりましょう。若尾さんにはすぐ声かけて(註:声かけました。乗ってくださいました)。

もしオフィシャルなことにできるんだったら,人もアサインできるから楽になるんだよな。手作業でやろうと思っていたので。

―――人と機関とお金と,集めに行った方がいいですか?

医学界にもいろいろな方々がいらっしゃるでしょうから。あまり無理なさらないで。最初は1個の学会でプロボノでやって,「こういうふうにした方がいいと思うんですけどどうですか」って一回ちゃんと見せないと。クラスの上から5人なんで,なかなか認めてくれないと思うな(笑)。

―――医療系の団体のホームページで,構造化されていない情報がいっぱい載ってて,そこに患者向けの情報と医療者向けの情報と,あとリクルートの情報が載っているようなところにいくつか心当たりがあります。そこの関係者の先生と相談すると,面白いって言っていただけるでしょう。

味方を増やしていくことからですかね。分析した方向性が合っているのであれば,本当に早くやったほうがいいです。僕の思い過ごしだったら申し訳ないけど。

―――思い過ごしではなさそうです。私たちはもう,AIを使って買い物し始めてますからね。

病気についても必ず聞きますよね。2026年9月にOpenAIが上場するあたりから,他社のAIもすごい勢いで戦いに行くと思います。ここから半年が異常な伸び方をすると思うんですよ。Appleは遅れていますが,Appleが得意なのはこれ(スマホを指さす)。スマホを出したことによって世界がガラッと変わったじゃないですか。そういう「ガラッと世の中の空気を変える」みたいなの得意なんですよ。だからAppleは次に何を出すかも含めて,年末,来年春,来年の今頃まで,人類史始まって以来ぐらいに変化が起こる気がします。来年夏ぐらいにはもうみんながAI使って病院を選ぶかもしれない。

―――総体として世の中がクレバーになるのとは別に,サービスとしての医療が選ばれないっていうこともたくさん発生してくる。ほっといてもいい方向に向かう話題,というわけでは全くないですね。

その代わり,うまくAIを味方につければいろんなエセ情報は駆逐されるかもしれない。

―――偽医療,エセ科学みたいなものとの戦いにも,ちょっと違う展開が見えてくるかもしれない。

いい病院もちゃんと対応していけば,AIに選ばれなくても,ずっと地域で愛される病院になっていくということもできるだろうし。やり方ですよね。

―――面白いですね。メディカルジャーナリズム関係の人にも,ちょっと聞いてみたい話ですね。

ジャーナリストは,自分がどう使って記事作るかってことばかり話してますけどね。

―――医者もそうですよ。自分がどう使ってどう研究したかの本がいっぱいあります。

面白いし重要だけど,読者が変わる,生活者が変わる,患者が変わるっていう視点がなさすぎる気がします。

―――目からウロコとはこのことです。でも,ここからの半年~1年で,さらにウロコがはがされると。

どうやってもAI時代になっていくと思うんで。

―――頑張って準備して,協力をいただければと思います。本日はありがとうございました。

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