がん診療の話

22|15

5週に1度のペースで定時に帰る。カンファも研究会もない平日の夕方にあらかじめ予約をしておいて歯医者に行って歯のメンテナンスをする。ちかごろの青少年たちは小さいころからフッ素を歯に塗っており、「このフソまずいクッ素(※クソまずいフッ素)もうやだ! フソまずいクッ素(※クソまずいフッ素)」などとブーたれているけれども、そのかいもあってあまり虫歯はない、それは本当にすばらしいことなので喜んでほしい。一方の私は古い人間なのであちこちに虫歯の治療跡があり、もっとも、幸いこの15年くらいは、新規の虫歯にはなっていないのだが、詰め物とか歯茎をメンテナンスしないと、疲労に応じてしっかり歯茎から血が出てきてたいへんなのである。というわけでさすがに歯医者だけは欠かさず通っておりその通院頻度がだいたい5週に1度で、その日だけは定時に帰っている。先日、いつものように定時ダッシュをしようとしたのだが、17時を越えてからの問い合わせが多くて、どうしてだどうしてだと言いながら17時14分くらいに職場を出て本当にダッシュして車で歯医者に向かった(ひどい出費である)。微細な遅刻をして歯科衛生士さんにおわびをして、診察台に横たわったらマイクロスリープに連続して殴られるような状態で、口を開けていなければ歯科衛生士さんの指をたべてしまう(というかおそらくあのドリルを食べてしまう)ので口だけは開けていようと心に決めながら遠い夢を何個も見る。すると胸ポケットから電話の着信のバイブレーションが響いてくるのだ。LINE電話ではなくめったにならない外線電話。これはおそらくもう間違いなく病院からの電話なのだけれど、じつは直前にちょっと思い至ることがあり、たぶん10分くらいあとで折り返しても大丈夫な案件だよなと思って少し放置したまま歯の表面を磨いてもらっていると、そこからなんと4回にわたってブインブインスマホが鳴るのでさすがに閉口……はしないで開口したまま心でがっくりとした。いったんメンテナンスを止めていただき電話をする。案の定、超急ぎというわけではないのだがそこそこ判断に迷う「例の案件」であり、まあそうだよな、これなら私に電話をするよなあと思いつつうがいをする(まだ診察台に座っている)。電話の履歴をみるとどうも病院の複数箇所から電話をかけているらしく、おそらくその一つは主治医ではなく彼の指導医からで、まあなんとも教育熱心なことだと思いつつ、それもまた無理もないことだよなとある程度腑に落ちた状態でふとふりかえると忙しそうな歯医者がそこに立っていた。す、すみません、めんぼくないですといってメンテナンス後の話を聞く。彼はひとこと、「体調に気をつけましょう、お互い」と言ってマスクの下で笑っておつかれさまでーすと節のついたセリフと共に私の首元にまかれている「例のよだれかけみたいなやつ」を外してくれた。

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