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出張先で診断する検体にはそこそこ偏りがある。この病院ならではの病気というかんじだ。
別に地域ごとにはやっている病気が異なるというわけではない。偏りが出るのはひとえに、それぞれの病院にいる医者たちの専門性のちがい、どういうところから紹介を受けているか、といったファクターに左右されている。
ただ、まあ、それはそうなんだが、たとえば同じ大腸癌と言っても、A病院とB病院では微妙に組織型の傾向に違いがあるように、感じることもある。気のせいかもしれない。取扱い規約の記載や統計処理上はそこまでちがわないのだ。しかしなんというか、細胞の顔つきというよりも、登場する細胞の、それも主役ではなくエキストラに相当するような端役の細胞の雰囲気が微妙に違うんだよなと感じることがある。最初は染色の違いによるものかと思ったのだが長年診断して脳で染色の違いを補正できるようになってもやっぱり違うので、検査室の用いている試薬の違いというわけでもなさそうだ。
方言みたいなものなのかな。内容は変わんないんだけどニュアンスがちょっと違う、みたいな。論文化するにはあまりに根拠がないのだけれど、実際私は、「この病院の細胞の見え方にしては違和感がある」という理由で20マイクロメートルくらいの範囲の異常を見つけたこともある。論理としては脆弱だが実践に役立つという、なんとも、匙加減もここに極まれりという話である。精度管理ちゃんとしなきゃね。