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一日の大半、原稿を書いていた。正確には読んでいた。過去に自分が書いたものを読み直して細かく治しながらそこに文章を継ぎ足していく。一章が書き終わったら一章を読み返してから二章を書く。二章を書いている最中にときおり一章に戻って一章を書き直し、その流れのままそれまで書いていた二章も書き直しながらまた少し書き進める。そうやって二章も書き終わったらその心情を含めてもういちど一章の頭から読み直して一章を書き直し、二章に入ると一章からの流れやつながりも変わっているのでまた二章を書き直す。そうすると二章を書き直し終わる頃にはまた新しいものが少しだけ見えているので、一章で書けることが増えるからまた一章に戻り、一章から書き直していってそのまま二章も書き直してようやく三章に入る。そうして三章を書いている途中に一章を思い出すべく戻っていってそこからまた一章を書き直し二章を書き直して三章の書きはじめの部分もすべて直す。
そうやっていた。今日、書き始めたのは三章のはじめの部分だ。そして一日が終わったころには二章の前半を直していた。
合間に研究や診断のことを考えた。研修医を指導するためには研修医でもわかる言葉で、自分が顕微鏡を見ているときに考えていることを説明できなければいけない。私にしかわからない言葉で語ってわかってくれるのは私だけだ。しかも、それは私もわかったふりをしているだけで実はわかっていないかもしれないことなのである。だから研修医に説明するときには自分がどこまでわかっているのかということを確認しながら、自分が本当はわかりきっていなかったことを言葉に直していく過程を経る必要がある。そうして研修医に教えているうちに私は研修医から私自身のことを教わった気持ちになり、研修医から私の病理学についての知識を教わったことになっていて、それによって私はまた病理診断をするための新たな考え方を手に入れることができるので、これまで持っていた自分の病理診断に対する哲学を修正するべく、研修医にいちから私の思っていることを説明しはじめることになる。