かっこよさを求める

12|5

まずは検体の深部にある異常に目が行く。そこをどういう言葉で表現したら臨床医に伝わるかなと考える。頭の中でだいたいのストーリーを作ってここはこれで行けそうだなと思いながら少し検体の浅い部分を見る。解釈できそうな所見がたくさんあるので、さきほど頭の中で書き終わった表現のあとにこれこれこのように付け加えればいいかなということを考えつつ顕微鏡を動かしていく。すると途中、ひっっかかる所見に出くわす。「なぜここにこんなに炎症があるのだろう」、これまで頭の中で書いてきた文章の「続き」にうまく書けないような所見なのでとても気になる。あるいは、と思って検体の表面をよくよく見ると、はたしてそこには10 μmに満たない病原体が観察できて、ああなるほど、これのせいで、私がここまでの20秒の間に積み重ねてきたストーリーがぜんぶひっくり返るわけか、といろいろ腑に落ちる。

というわけで無事診断はできた。報告書を書いている最中、「最初に、深部を見た段階で、表層の病原体にピンと来ていたらもっとかっこよかっただろうな」という反省をする。この反省を次に活かそうと思う。

タイトルとURLをコピーしました