汽水域

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学術講演というものをするためにとある地域に呼ばれた。先方と相談して、宿泊や空路についてあれこれやりとりをする。

ところがその予定の一日前に、別の予定が、別の地域で入った。うーん。いっそ、当日ならば、断われた。これはどうだろう。受けられるか? 無理か?

乗換案内のアプリで調べる。行ける。ぎりぎりだがなんとかなる。まず職場を昼に出る。飛行機で最初のA県に向かう。一泊。翌朝、A県で午前中に仕事をし、午後の[交通機関α]でB県に移動してそこから[交通機関β]でC県に移動してさらに[交通機関γ]でD県に移動することで、最初に予定した地域に夜中につく。一泊。翌日仕事をする。

やれる。

なので引き受ける。

それぞれのお相手に、細い針を通すような日程を伝えて了承を得る。

しめきりまでの時間がほぼ同じ新規の仕事が二つ入ったので、それぞれの仕事の内容を同時に考える。

人はそこまで器用ではない。当然、まざる。

今回の仕事はいずれも「がん」にかんするものだ。ただし、それぞれ、違うがんを相手にしている。

あるがんと、別のがんとでは、考え方を変える必要がある。だから、本当は、仕事の準備のしかたもそれぞれ変えなければならない。

しかし、異なる様式の仕事を日程という都合のために「うっかり同時期にすすめる」ことで、それぞれに用いる思考が微妙に反対側に漏れるというか、にじむというか、しみだす。

このことが……基本的には仕事を邪魔する。効率を落とす。

しかし、慎重に語るが、このにじみ、しみだし、まざりが、私に「がん」に対するちょっと込み入った印象を与えてくれているのではないかと思うことがある。

色合いがぼやける部分には栄養があるかもしれないと、控えめに、述べたくなることはある。

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