11|8
少し集中しようと思うと迅速組織診のオーダーが入る。顔をつけていた洗面器からプハァと離れて別の場所にあるユニットバスにタタッと走ってドボンと潜ってしばらくそっちで集中して終わったらザブァと出てまた走って戻ってきてもとの洗面器にタポと顔をつける。さあ! と集中してまたしばらく経つと迅速組織診のオーダーが入ってまたプハァと出てきてタタッと走ってドボンと潜ってザブァと出て走ってタポ。これを何度も繰り返す一日であった。
カンファレンスで癌の組織像の説明をする。こんなことしなくても、文字情報だけで十分臨床は回っていくのだけれど、なんとなく、これを説明してもらったほうがうれしいと感じている医者が何人かいて、だから私は毎週カンファレンスで癌の組織像の説明をする。病理医が細胞の説明をすることで患者がよくなるというエビデンスはない。
「特茶」のエビデンスがどうとかいうCM、めちゃくちゃ腹立つよな。なんだあれ。対照群がなにもしないでデータ悪くなってるのをどう説明するんだ。「エビデンスがあるんです」じゃねぇよ。グラフ1個でエビデンスとかばかにしてんのか。ブチギレながら、しかし、医者が非医療者にエビデンスの説明をするときも、だいたいああいうニュアンスなんだろう、「俺が正しいってことを資料つきで説明してやるから納得しろよな」という雰囲気を出してるんだろう、それを企業が真似するとああいうCMになるんだろう。つまり悪いのは医者のほうなのだ。私たちはエビデンスという言葉をすっかりおとしめてしまったのだ。おちこむ。自分の病理の説明も、そうなっていないだろうかと、おちこむ。