医学の歴史

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「ある条件」。それは臓器を長年にわたって痛めつけてきた。

そこに出た、がん。

当然、「ある条件」によるものだろう、と推測する。原因を考えるわけである。

タバコ、HPV、ピロリ菌。癌の原因。

これらが世界的に癌を引き起こす悪いやつらだろ判明するまでにはけっこう長い時間がかかった。

最初は、観察からスタートした。がんの横には、やたらと、こいつらがいるなあと。同席率が高いなあと。

そこから「証明」に至るまでの理路はやたらと長い。膨大だ。かなり綿密な手続きがいる。

そういう手続きを、かつてどこかの研究者たちが丁寧にたどったのだということを知らないと、おかしなことを言うようになる。

研修医が学会発表の準備をしている。ポスターを作っている。たくさんの論文を調べたのだろう。参考文献の欄がパンパンにふくらんでいる。よくがんばっている。

考察に、「今回、Aという病態になった理由として、BとCが挙げられる」と書いてあった。

Aはわりと珍しい病気の名前。B, Cは、いわゆる、条件である。

私はそのポスターを読んでこう思った。

「AのまわりにたまたまB, Cが通りがかった可能性をちゃんと否定できていない」。

彼の発表に先行して、世界のあちこちから、BやCについての報告がある。しかし、彼が今回じっくり調べている「まさにその症例」にとって、BやCがどれほどの意味を持っていたのか、彼が手を尽くして調べきったようには見えなかった。

「犯人は現場に戻って来るっていうじゃない」。じゃあ、現場を見に来ていた人を全員容疑者として拘束すれば事件解決に向けて大きく進歩するか? ほんとうに犯人は現場にいるか? もう立ち去ったあとということはないか? たまたま通りがかっただけの、容貌魁偉な運の悪い人を、犯人だと思い込んではいないか?

まあ、いいのだ。研修医はこれから学べばいい。

パワポで作ったポスターに25個のコメントを入れて研修医に戻した。医学の歴史を学び足りない研修医にわかってもらうには、それくらいのコメントを費やす必要がある。段階を踏んで解明していくべきものを説明しようと思うと、こちらも段階を踏むべきだろう。

発表まではまだ1か月ある。ほかにやることも多いから大変だろうけど、ぎりぎり間に合うだろう。

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