※毎週火曜日、書籍『がんユニバーシティ』で行ったインタビューの、「編集中の原稿」を全文公開します。書籍版ではここから大幅に編集をし、各先生方からの寄稿をはじめとするたくさんの文章をコラム的に散りばめて、一冊の本にまとめます。このブログでは、インタビュアー(市原)が興奮し続けた「生の雰囲気」、編集前の原稿だけが持つ猛烈な(ちょっと読みづらい?笑)エネルギーを味わっていただきたいと思います。
科目名: 放射線診断科
講師: 三宅 基隆 先生(国立がん研究センター中央病院)
テーマ: 「がんの画像診断」
学期: 2年前期
Q1. 三宅先生のご専門と,お仕事の内訳をお教えください.お仕事のなかで,「がん」に関するものはどれくらいありますか.
A1. 放射線診断医です.仕事に占めるがん医療の割合はほぼ100%.
私はがん病院に務めているので,普段は100%がんの画像,がんをもっている患者さんの画像しか見ません.大学病院に1年だけ所属していたときもがんに携わっていました.がん以外がわからない,「がんバカ」です.
当院の患者さんのほとんどが他院からの紹介で,だいたい,がんの診断がすでについているわけです.そこでまず私がやるべき仕事は,前の病院の診断が本当だったかという,再診断を行うことになります.私たちの病院に来られた時点で患者さんの病期はおおむね定まっていますが,再診断のために積極的に画像の再検査や侵襲的な再生検を勧めることも多いです.国会における参議院,あるいは,裁判における第二審を行っているイメージかもしれません.
一方,がん病院「以外」にお務めの放射線診断医はそうではありません.がんの患者さんが30%くらいだという病院であれば,当然,読影する画像の半分以上はがん以外になります.怪我だったり,肺炎だったり.
第一線で疾患の振り分けをするわけです.画像を撮ったらまず,どう思うか可能性を列挙します.画像に映ったものがそもそも腫瘤なのか,腫瘤だとしたら腫瘍なのか.腫瘍だとしたらその後どうすべきか,みたいなことを考えます.第一線の先生方は,私のような「がんの診断がついてから画像を見る放射線診断医」とは考え方が違います.
Q2. 三宅先生にとって,がんに携わるとはどういうイメージでしょうか.数ある病気の1つなのか,それとも,ちょっと独特なところがあるのか.
A2. ほかの疾患を診断しているとき,常に気にしています.
患者さんが昔,がんを患ったことがあるかどうかというのは,非常に重要な情報です.早期のがんであっても,再発や転移ということがあり得ますので.20年前にがんがあって,もう治ったんです,という病歴を見たら,「万に一つの可能性もあり得る」ということを常に考えておく.
画像診断では,事前確率が非常に重要です.内科医,外科医,整形外科医などが,画像診断のオーダーをするわけですが,診察の時点でだいたいこの疾患ではないかというパーセンテージ=事前確率がある程度わかっています.それが十分に高い場合には,画像診断をしなくても診断をつけていいという話になります.一方,事前確率が3~6割くらいだったら,画像診断をやることに意味があります.逆に,事前確率が低すぎても,画像診断をやる意味がなくなります.そういったことを頭に入れながら診断します.「がんの既往」というのはまさに,事前確率に大きく影響するんですよね.
Q3. 「がんの学問」(がん学)を想定します.それはどのような学問体系でしょうか.
A3. 生命保険ですね.
自分ごとにしないと,みんな勉強しないじゃないですか.医者には放っておいても勉強する人もいますけど.一般の人ががんを勉強するかというと,なかなかできない.学問っていう感覚だと難しいです.であれば,日常生活に染み込ませるしかない.たとえば,『風の谷のナウシカ』の7巻に,「死は我々の生活の一部になっている」というセリフが出てきます.がんや死のことが生活の一部だと感じる世代が育つといいですよね.
それがわかっているから,政府もがんの教育を小学校・中学校で始めることにしたわけです.学校の道徳の授業レベルで,がんの授業をやってもらう.「がんは悲しいんだ」だけじゃなくて,遺伝子のエラーによるものだとか,定期検査でチェックしたほうがいいがんがあるとか,ワクチンの重要性とか.「私たちは生まれたときからがんとともにある」ってことを子どもの頃から学んで,自分ごとにしてもらうのは有効だと思います.
では,すでに大人になった人がこれからどうやってがんを自分ごとにするかというと,そこは生命保険なんじゃないかなと.生命保険,がん保険.お金がいくらかかって,たとえばそこに大腸CT検査を1回受けておけばリスクが下がって,保険の掛け金が下がる,みたいなことになったら興味を惹くと思います.いろいろながんの生涯リスクに基づくファイナンシャルプランが考えられると面白いと思いますね.
Q4. 「がん学」を修める医療系の学生が,心にとどめておくべき「勘所」はありますでしょうか.
A4. 自身の頭の中のニューラルネットワークに対して,ガンガン入力してほしいですね.
勉強として,ウェブでダウンロードできるものだけ読んでいる学生は,ちょっともったいないな思います.その段階で自分が満足できるんだったら,それはそれでいいけれど.「桜の花見をするのにどこがいいですか?」みたいな話と言いますか.「仁和寺の桜がいいですよ」って言う人がいたので,途中まで行って桜を見て帰った.でも,実はその奥にある桜が本当にきれいだったのに,もったいない,みたいな.桜に興味がないとわかったのなら,そこで帰っても構いません.しかし,自分の心が少しでも動いたのであれば,さらに先へ,奥へと進んでみるのがよいと思います.さまざまな景色が,自分自身のニューラルネットワークに誤差逆伝搬するように作用し,出力が変化していく様子を自覚するのは,とても楽しいものです.がんの世界は,一生かけても飽きることがないほど広大です.
そうですね,本屋に行って,自分の心に響く本を手にとって読んでみるのがいいのでは? でも,まあ,どれを読んだらいいかっていう話も難しいですよね.自分の心に響かないところを読んだって,ぜんぜん記憶に入っていかないし.医学書院の本を読め,とか(笑).一時代を築いた人の「極言集」はいいですよね.頭のいい人の言うことは,世代が違っても的確で,そのエッセンスはたぶん,『胃と腸』とか(笑),そういった類の本にたくさん残っていると思います.
ノーベル賞を取った方とかもよく言われますが,勉強をしたかったらとりあえず本を読み,感銘を受けたら,その著者のところに行ったらいい.知行合一の人を探せたらいいですね.というか,そういう人がいる分野じゃないと,突破できない気がするんですよ.
Dialogue
<未来の聴診器>
――ありがとうございました.ここに至るまでの,三宅先生のご来歴をお聞かせいただけますか?
父が小児科医だったので,最初は小児科に親和性を感じたのですが,小児キャンプなどに参加してみて,僕には合わないなと思っちゃいました.この子たちに寄り添ってると,自分がつぶれるなと思った.父みたいにはできない.僕は人と距離を取った科のほうが絶対いいと思いました.たぶん,患者さんからのいろいろな要望を,僕は断れない.そうなると,自分自身のキャパシティからして,何の役にも立てないのではないかと.
そんななか,放射線科に出会いました.大学4年の放射線学の講義が始まって,教授がすごく「燃えている」先生だった.赴任2年目だったのですが,すごくオーラがある.非常にアグレッシブ,かつ,エネルギッシュな方で,こんなにすごく面白い科があるのかと.それまで放射線科なんかぜんぜん知らなかったんですけれどね.
画像診断って重要なんだ.これは「未来の聴診器」になると思いました.しかも専門性が高く,外科からも内科からも,ヘルプ要請がすごくありそうだということもわかりました.
放射線診断学って,がんがメインなんですよね.CT,MRI,核医学.これはがんが対象なんだなと.勉強しているうちに,がんって面白いな,と思った.どこで修行するか考えて,いろいろな縁があって,がんセンターに来たという次第です.
――放射線科医という仕事の魅力がまずあり,そこにはまって,扱う対象が主にがんだったから,がん医療がメインになったということですね.
そうですね.ちなみに,放射線診断学がすごいなと感じたもう1つの理由があります.当時,放射線科へのヒト,モノ,カネの投資がすごかったんです.CTの多列化競争が始まった頃でした.放っておいてもいろんなプロジェクトが立ち上がり,あれしませんか,これしませんか.企業のマーケティングの戦略とも言えますし,その結果が,日本国内CT1万5,000台の現実につながってしまっているわけですが,そういう雰囲気のなかでいろいろなものを見て,「診断学ってすごいな」と肌で感じました.
――そして今は,国立がん研究センター中央病院という,日本中からがん患者さんが集まってくる場所で,たくさんのお仕事をされている.
運がよかったです.自分,本当にしょうもない研修医だったんですよ.「お前,本当にできないな」って,3年間,地方のがん病院で言われ続けたくらいです.「もうちょっとましな医者になるために,日本で一番症例が集まるがんセンターに行って,勉強してみたらどうだ」と言ってくれた先輩がいまして,その方もがんセンターから帰ってきた人だったんですけど,「そこでダメならどこでもダメだから,まずちょっと行ってこい」.それで,3年くらいのつもりでレジデントとして入ったんです.
もともといた病院では,骨軟部腫瘍や希少がんは読影が滞りがちでした.何でだろうと思って実際に自分がやってみると,とても難しい.種類がたくさんあるし,画像診断に求められているものもよくわからなくて,しかも鑑別を書かなければいけない.鑑別できないのは苦しいです.「ここに腫瘤があります」だけのレポートを乱発すると,放射線科医としてどうなんだ? という雰囲気が出てくるから,食指が伸びにくい.
私はそこを拾いました.これをやれたら専門性がすごく高そうだなと思った.「究極のローカルならインターナショナルでも生き残れる」みたいなことを言いますね.がんセンターで骨軟部腫瘍を勉強しようと思いました.症例がたくさんあり,とても有名な先生がいらっしゃった.
ところで,放射線科は診断だけの部門ではありません.IVRという手技があります.がんセンターに入って,当時の部長に「お前,何がやりたいんだ」と言われて,「いろいろ勉強をして骨軟部とかをやりたいです」と言いかけたら,「そうじゃないんだ,IVRをやりたいかどうかだ」って言われました.でも,私がそれまでの間にIVRを2年くらい研修させてもらって感じたのは,少なくとも私はこれをやってはだめだということだったんですね.私にはそこまでの腕がなさそうだなと.ですから部長に聞かれた瞬間,私はIVRをやめようと思ったんです.やらないほうが患者さんのためになる.やればある程度はできたかもしれませんが,手技系はうまい人がやったほうがいいと思いました.
<No CTC, No life>
――そうして「放射線診断医」の三宅先生に至るわけですね.
ありがとうございます.ただ,今まで見た12万件くらいの症例のなかで,「どれだけ私が医師として患者さんを救えたか」というと……大半は救えてないんですよね.たとえば,がんセンターで検査を受ける人はたくさんいらっしゃいますけれど,2か月に1回,3か月に1回,定期的にCT検査を受けて,いずれは亡くなっていきます.検査数は多くなっていますけれど,画像診断自体が救命につながるわけではありません.
ところが,これは思いもよらなかったことだったんですが,がんセンターでCTC(CT colonography)に出会いました.
――CTC,いわゆる大腸CTですね.がん検診ツールとしての有用性が話題になっています.
仮に,CTCを12万件やったとしたら,確実に1,000人の命を直接救うことができます.この1,000人という数字を,1万人とか10万人とかにしていくというのが,今の私の医師としての目標なんです.まあ,今,ちょっと,すごくいいペルソナでお話をしていますが(笑).
放射線診断医として画像と向き合ったとき,患者さんの予後を改善することを目標に据えると,乳腺ではマンモグラフィを用いた検診システムができあがっているのに対して,CTCはまだ普及が進んでいない.ここをなんとかしたい.
保険診療で行われているCTC件数が年間5万件くらいです.検診も,さまざまな企業にたずねてみると,あわせて5万件くらいではないか.合計10万件しかなされていない.これを年間100万件のレベルに乗せることができると,もうちょっと普通の検査になってきます.ちなみに,今,循環器の診療現場では冠動脈CTが一般的になりましたが,冠動脈CTが年間50万件程度のはずです.それに比べてもやっぱり少ない.
ちなみに今,「下剤を使わなくてよいCTC」というのも開発されています.
――下剤を使わない! それはすごいですね.腸管内容物をサブトラクションする技術を搭載しているということですか?
どうもそういうことのようです.これがもし達成されると,今まで内視鏡を受けてこなかったような,下剤を理由に検査を忌避してきた人たちが,一定数流れ込んでくる可能性があります.するといろいろな会社がキャンペーンを打つと思うので,そこから2, 3年で検査件数がぐっと増えると思います.
ぱっと社会の期待が高まったときに,放射線診断医が読影できませんというのは避けたい.だから,ここ数年の目標として,CTCを診断できる医者を急増させたい.500人くらい増やしたいんですよね.CTCのハンズオンをしっかりやったり,学会でもいろいろ露出を増やしてもらったりしています.
――放射線科医は足りていないんでしょうか.
放射線科のなかでも,CTCってまだレアな検査だと思われているんですよね.2012年に保険が通って,そのとき知名度が上がったんですが,CTCを導入した先生が異動されたり辞められたりしたあと,新任の先生が来ると,「俺,それ知らないわ」と…….
―― ああ,あるあるですね…….
がんばって自前のデータベースで勉強してやっている放射線科医もいらっしゃいますが,新任の方が来たことでCTCをやめてしまった病院もあります.そこでハンズオンの需要が生じています.
また,内科のほうでも,オーダーを出していた医者がいなくなって次の医者がオーダーを出さなくなった,つまり,CTCという手があることを知らない医者がいたりしますので,そういう方々にもアプローチしなければいけない.私たち放射線科医の立場の残念なところは,「依頼がないと仕事が発生しない」というところなんですね.
――病理解剖が減った理由の1つもそういうところにあると聞きます.
なので,啓発的なものを作りながら,目を引き,耳を傾けてもらう.あの手この手で10年がんばってみようかな,といったところです.大腸がんは,年間15万人くらいの人が罹患して,7万人くらいの人が進行がんで発見され,5万人くらいの人が亡くなっている.世界一罹患して,世界一亡くなっているのに,日本がその予防に成果を出せていないというのは意味がわかりません.
10年前に大腸CTが保険診療を通ったとき,すごく警戒されました.内視鏡の先生のなかには,AIが仕事を奪う,みたいに「大腸CTが俺たちの仕事を奪うんじゃないか」みたいなことを言う人がいたんですよね.私は「そんなことは絶対にないですよ,冠動脈CTみたいによい感じになります」と言っていました.でも市場はあまり受け入れてくれなかった.
でも,今は,内視鏡の先生がCTCに関する演題をたくさん出すようになってきました.この間も学会のシンポジウムで内視鏡の先生にお話してもらったんですけど,推すんですよ,CTCを.場外でこっそりと「どうして今CTCなんですか?」ってお尋ねしました.「僕たち内視鏡医もいろいろ言ってきたけど,僕たちの力だけでは今の現状を変えられないっていうのは重々わかっている.何とかしたい.そのためにCTCを使いたい」みたいなことをおっしゃっるんですよ.
今,風が吹いている気がします.ここで幻滅させてはいけない.放射線科が頼りになる科でいられるとすれば,CTCをやるしかない.注腸はもうできませんし.注腸件数は1次関数的に減っていっており,数年後にはCTCとチェンジします.技術継承者もいないです.
ただ,注腸で培われた診断学は息づいているんですよ.この間,CTCのハンズオンをやったときも,随分とご年配の先輩たちが参加されていらっしゃいましたが,CTCに興味があって,「俺は大腸がんのことはわかるから,手法さえわかれば俺でもできる」とおっしゃる.ぜひぜひ.そういう方々は今,遠隔画像診断の領域でご活躍ですので,今後全国から受注される検査をどんどん受けてもらって,診断をしていただけたらなと.
放射線診断医が「商売」としてこれから自信をもって提供できるのはCTCです.推し一択.まさに「No CTC, No life」です.まあ,将来的に,『ノメバナオール』みたいな薬ができたら,別に,大腸がんの早期発見なんてしなくてもいいのになとは思いますが(笑).
<医学は常に過渡期の学問>
医学って常に過渡期の学問なんですよね.私は,CTCという手段を以て,病態生理の知識を次世代に引き継ぐしかないと思っています.それこそ,注腸検査で培われた知識が引き継がれてきたように.
かつて,CTCを学び始めたとき,最初に何をやったかというと,『胃と腸』を読んでこいと言われたんですね.病院の地下書庫に行って,創刊号からずーっと,『胃と腸』の表紙にでかでかと胃が写っている時代のやつをわーっと見て,消化管診断をわーっと見て,こんな時代だったんだなと.熱いんですよね.すごいなと思ったのは,早期胃がんの肉眼形態分類を作るときに,どこかのホテルに何週間か缶詰になって,ホールを借り切って,そこに症例の写真を並べて一気にやった,みたいなエピソード.そういうくだりを座談会形式で読む.これ,熱いわと思いました.今ならクラウドでやるのかもしれないですけれど.
市川平三郎先生の海外旅行記もおもしろかったです.いろいろな学会で,海外のドクターが,「早期胃がんなんか存在しない」なんて言っている.そこに日本から持ってきた大量の写真を見せて,みんなシーンと黙ってしまう,みたいな.熱い.『胃と腸』は日本の消化管診断の歴史が詰まっていました.そして,徐々に内視鏡一色になっていく.やがてCTCがときどき紹介され,特集される.『胃と腸』には先人たちがどうやって形態診断学を形作ってきたのかっていうエピソードが,ぜんぶ載っているわけです.
――医学は常に過渡期にあり,CTCもまた歴史を次につなげていく存在なんですね.
今やCTCは国際的にもすごく流行っています.骨軟部腫瘍のような希少疾患と大腸がんとに出会い,おもしろいと気づけたことがすごくラッキーでした.症例数が多い疾患にも,少ない疾患にも,どちらにも携われますし.
――前がん病変のスクリーニングから,進行,転移再発病変まで見られますね.
そうなんです.大腸診断学というのはすごく射程が広くてバランスがいい.CTC自体も腹部のトータル画像診断ですから,それをきっかけに全部勉強できます.
―― CTCと出会えたことは本当にすばらしいご縁だったのですね.
そこなんですよね.昔,私ががんセンターでレジデントになるにあたって,注腸検査とか胃透視をがんがんやるのかな,と想像していました.『ガン回廊の朝(あした)』を読むと,不夜城のがんセンターで,胃X線の二重造影法の開発とかを夜通しやっている.がんセンターに行ったらやっぱり注腸をやるんかな,苦手なんだけどなあ,と思って行ってみたら,もうやっていなかったんですよ(笑).CTCに置き換えた先生がいたんです.
―― なるほど.世に知られるよりもだいぶ早い時期ですよね?
2005年ですね.
――まさに黎明期ですね.
初めてCTCを見て,家に帰って,妻にすごく興奮してしゃべりました.自分では覚えてないんですけど(笑).これはすごいぞと.私が画像に撮れなかった,検査できなかったものが,何もしないでももう絵になっていると.そこからのめり込んじゃったんですね.
<広報,政策>
医者として,大腸がん診療を,予後を改善したい.そのためにCTCの普及に尽力したい.たとえばこんなのを作ったり.
――CTC普及のための缶バッジ,トートバッグ,Tシャツ.
何かできればなと.CTCの普及をがんばりたいっていうなら論文を書けって言われたらそれはまあそうなんですけど,間に合わせるには論文以外も大事なことがあると思います.
―― むしろ,政策が必要ということでしょうか.
政策ですね.たとえば佐賀県の取り組みは非常に面白いです.佐賀県はピロリの検査を中学生にさせるらしいんですね.公費で除菌する.そしたら,何十年後かには,佐賀県の胃がんはほぼなくなるんじゃないですかね.そういうのがもっと増えてほしい.
大腸がんも,今は便潜血検査しか検診がないですけど,家庭のトイレで便潜血反応がわかるような時代になったらいいですよね.先日もそういう研究のプレスリリースが出ていましたが.家庭の誰かに,どうやら大腸がんに罹患している人がいそうだとか,あるいは,公衆便所にそういうトイレを組み込んで,1回500円とかで即座に検診ができるような時代になればいいですよね.出して,ピッて押して,判定されて,「俺,便潜血ありそうだ,この足で病院を予約しよう」みたいな.その際に,内視鏡は大変だっていうから,CTCでも1回かましておくかみたいなね.そうやって安心を増やしていく時代が来てもいいかなと思います.
<趣味か,仕事か>
現代の医療だと,放射線診断医ががんの診断を通じて患者さんの予後改善に寄与できそうなのは,乳がんと,肺がんと,大腸がんくらいです.
――画像による検診が予後を改善し得る領域,ということですね.
そうです.対策型検診の,五種類のがん(乳がん,肺がん,大腸がん,子宮頸がん,胃がん)のうち,子宮頸がんは細胞診の担当で,画像の範囲ではないですし,ワクチンができたから今後画像の果たす役割は小さくなっていくでしょう.一方,肺と乳腺はすでにわりとやれている.次は大腸がんです.便潜血の次のサービスとして,私たち放射線科医がCTCを活用することで,患者さんの生存率向上にもう少し寄与できる.そうなってくると,生存率向上に寄与できない画像は「趣味」と言われても仕方ないかもしれません.
あ,ここはカットしてくださいね(笑).
――医療者から寄せられる複雑な疑問に対して,B to Bで回答を返していく,コンサルタント的なお仕事の部分に,「生存率の向上のような劇的なアウトカムが得られるわけではない」という意味で,「趣味」という言葉を使われているということですか.
ええ.たとえば肝臓に腫瘤があるとして,それは悪性か良性かだけわかれば,方針としては十分です.そこに細かな鑑別をつけていくのは,生命予後改善に寄与するかどうかという意味では過剰な情報です.
CTCを例に挙げると,大腸ポリープの形態や大きさの評価は重要です.しかし,CTCの段階でその病変が大腸腺腫なのか大腸がんなのかを厳密に診断しきる必要性が,必ずしも常にあるとは限りません.臨床的に重要なのは,まず内視鏡的切除の対象となる病変かどうかを見極めることであり,最終的な組織学的診断は切除後に確定されます.そう考えると,画像診断に求められる役割は,自ずと整理されてくるように思います.
―― 個人的には,画像の段階でどこまで鑑別ができるかというのはわりと気になりますし,大好物ですが……うーん,たしかに,「大好物」とか言っている時点で,「趣味」的かもしれません.
一方で,たとえば,手術のあと,おなかのなかにデスモイドができることがありますよね.あれをリンパ節再発と診断しちゃうと,いきなり化学療法になってしまいます.そういう診断は大事です.
―― たしかにそうですね.ただ,desmoid-type fibromatosisは,画像だけで診断できるものなのでしょうか.
見る人が見ればわかる,という感じです.
――それはすごい.わかるんですね.
手術する前に何例か正診したことはあります.これ,デスモイドでしょと言って,取ってみたらやっぱりデスモイドでした,みたいな.そういうのは,自分のなかにアルゴリズムがあるんですよね.で,それを言語化できるところは言語化して,論文化していく.それは私たちの仕事です.
―― すさまじいお仕事ですね.
で,言語化できないところは全部AIに入れてしまう.こっちは病理でデスモイドでした,こっちはがんの再発でしたと.それでクラスタリングして,将来はがんか否かの判断をAIに任せる時代が来ると思います.今の私の仕事は,「病理がつけた正解を画像にラベリングしていって,ちょっとずつAIを作っていく」ということでもあるんですよね.そういう「ちょっとずつAIを作るシステム」も,ようやく,院内で実装できました.
<AIはエアコン>
――AI!ぜひAIの話をおうかがいしたいと思っていました.
AI,すごいですよね.先生は使っていますか?
―― 病理は,研究レベルのAIはたくさんあるんですが,現場に実装されないので,まだまだ使えません.
私は,AIって病院のエアコンみたいなものだと思うんです.「AIは保険で算定されていないから導入できない」みたいな施設もけっこうありますけれど,エアコンだって保険点数ついていませんが普通に各病室にありますよね.それでいいと思うんですよね.そもそも,「予後の上乗せ効果」なんてなかなかできるものではないですし.予後にインパクトを与える成績が出てからじゃないと認可しませんっていうのは難しいです.
――なるほど,臨床研究でAIが有用だという結果が出るかどうかと,AIが現場に入ってくるかどうかは,別の話なんですね.
AIっていくつかの種類があると思うんですよ.放っておいても実装されるAIとか,研究者ベースで作らないといけないAIとか.
「放っておいても実装されるAI」は,これがないとCT装置がそもそも売れない,というやつです.CTの線量を下げて解像度の低いざらざらの絵を撮っても,それをAIできれいな絵にできる,みたいな機能とか.この導入には誰も反対しないし,それがなかったらCTが売れない.だから放っておいても実装されます.肺の結節検出とかもそうですね.n数が多くて,ラベル付が容易で,作り方も民間の方々がだいたいわかっています.こういうAIは積極的に企業が作って実装します.
でも,そうじゃないものもある.たとえば希少がんのようなものは,そもそもデータが集めにくいし,ラベリングも難しい.ラベリングできる人自体が限られている.そういうのは「研究者ベースで作っていくしかないAI」です.
――希少がんのAIはいかにも難しそうですが.
AIの難しさは,必ずしも希少性だけのせいではないんですよ.たとえば,骨軟部腫瘍の診断にMRIをよく使います.だから骨軟部腫瘍を診断できるMRI用のAIがあったら便利そうです.しかし,骨軟部腫瘍は分類体系そのものが複雑で,新しい分子病理学的概念の導入によって診断基準の更新や病名など「答え」自体が変わってしまう可能性もあります.どのようなAIを作ればいいのか,AIの設計自体が難しいという問題もあります.このような領域では,AI開発に多大な労力をかけても,完成した時点で既に陳腐化しているというリスクも存在します.
――AIを作っているうちに臨床がアップデートされてAIの推論が古くなってしまった,みたいな話は本当によく聞きます.
MRI自体,AIとの相性がよくない検査でした.というのも,CTと違って,MRIは撮るたびにピクセルの値が変わるんですよね.CTの場合は空気と水を基準にして,毎朝ファントムでCT値を定めるので,違う患者さん同士でもCT値が似ているならば同じ物性だと言えるのですが,MRIは1シークエンス撮るごとに,同じシークエンス条件であっても信号値が変わるんです.そこの壁を乗り越えるのが大変だった.ようやくディープラーニングで乗り越えることができて,企業がいくつかの商品を世に出し始めましたが.
企業が次に製品化をするとしたら,n数がそんなに多くなくても市場性がありそうで,データベースがある程度揃っていて,研究者ベースでプルーフ・オブ・コンセプト(PoC)が達成できているものだと思うんです.ちょっとやったら製品化できそうな部分.そこの鍵になるのは,むしろ希少がんだと思っています.
――そうなんですか!
希少がんで一番多いのは脳腫瘍ですが,脳腫瘍ではAIのPoCができましたので,今後は順次,ロングテールの部分をどこまで拾っていけるかです.あとは縦隔腫瘍です.縦隔腫瘍を専門にしている人というのは少ないんですが,縦隔は正確な計測というか,セグメンテーションしておくと便利なんですよ.CTでやれるし.
――縦隔腫瘍は嚢胞成分のあるなしプラスアルファまでしか,日常診療では鑑別しにいけない印象があります.
縦隔腫瘍のAIでの鑑別はいけると思いますよ.なぜかというと,人間がすでに鑑別できているので.嚢胞,リンパ腫,血管がどうのこうのというように,人間が鑑別できるならばAIもできるようになります.どこの企業も食指を伸ばさなかった分野ですけれど,PoCさえできれば,企業から一緒に作りましょうと言われた時点で,社会実装できそうです.
<誰のためのAIか>
画像診断AIで,病変を見つける感度が……とか特異度が……と言い出すと,それは誰のためのAIなのかってことを問われます.そこで「医者が楽に仕事ができるからだ」と言うと,つまり医者のためのAI,ということになる.病院の経営陣からすれば,億単位のお金がかかるものを,医者を楽にするためだけに導入するでしょうか.そんなお金はないという話になってしまいますよね.
でも,放射線学会が,保険診療でAIを使いやすくなるよう,画像診断管理加算というものに組み込んで,「放射線科はAIを管理する科ですよ」という定義を出してくれたので,大学病院クラスではAIの導入が進んでいっています.放っておいても実装されるAIに加えて,画像診断医がきちんとAIを管理しなさいという方向でも,だんだん間口が広がってきているわけです.
――なるほど,医者が楽になる,という言い方じゃなくて,医者が管理してAIを使いこなすという方向で導入をしていくんですね.
内視鏡診断で,AIがポリープを1個見つけたら6点,みたいな,「うまく病変を見つけて診断したら加点」という仕組みもできています.すごく安いので開発費はぜんぜんペイできませんが.AIなしの内視鏡なんて今後は売れないので,これもさっきの「放っておいても実装されるAI」に入ります.
ただ,こういう加点のきっかけばかりあてにしていると,AIの普及という面では悩む部分もあります.たとえばEwing肉腫のような希少がんについて,AIを使って診断したら加点がつくなんてのはなかなか想像しづらいです.病理についても言えますが……どういう仕組みがいいんでしょうね.H & E染色像から,AIの助言に従って,免疫染色をうまく絞り込んで追加したら加点? なんだかちょっと,難しいですよね.
「昔のプレパラートが色褪せたのを,AIを使って元に戻す」みたいなのは,放っておいても実装されますけれどね.一方で,セルカウント,たとえばGISTの強拡大1視野あたりの核分裂像をカウントしてくれるみたいなAIは,「管理加算」的な考え方で実装できるかもしれません.
――病理診断でAI導入の障壁としてよく言われるのが,「病気ごとに1つひとつ個別のAIを導入してもきりがない」というものです.放射線科のAIはどうしているのでしょう.
それはですね,企業さんもうまくやっているんですけれど,「撮影から診断までを一気通貫するシステム」がきちんと作られていまして,そこに,4か月に1回くらいのペースで,ソフトをばんばん作ってバージョンアップをしていくんですね.
――なるほど.ソフトウェアのバージョンアップとして対応していく.
MRIなんて,今や,機能が次々と増えていますよ.たとえば,「椎体の番号が数えられるようになりました」みたいな細かいものが.これまで,私たちが椎体を上から1, 2, 3,って数えていたものを,AIが「ここは10」って出してくれるみたいな.
病理だと,たとえば韓国では,バーチャルスライドの統合システムとして,異なるデジタルスキャナ会社のデータをDICOM化し,放射線画像のPACSと同じようにして扱おうという会社が出てきています.いずれはそういうところが全部を牛耳っていくんでしょうね.
――それ,ずっと言われてるんですけれど,日本ではぜんぜん進まないんですよね.
病理専門医って日本だと2,500人くらいいらっしゃいますよね.でもグローバルサウスだと,国内に100人も病理医がいないところってざらです.島が点在してて距離が離れてるなんてのもあります.そういうところは,必要に迫られまくっているので,さっさとGoogle Cloudあたりで統合してしまっていて,日本とはぜんぜん違うシステムで急速に発展していってます.「えっ,日本ってまだそんななの?」って思われる時代が,十年ちょっとで来るんじゃないかと思います.
――しんどいなあ.
<世界基準と外れ値>
今は日本では65歳以上の高齢者が3,500万人くらいいて,がん患者もその世代にたくさんいらっしゃるわけですが,20年後くらいにはそれがどんどん減っていきます.医者の定数が変わらないとすると,医者が余る時代が来ますよね.となると,海外に行く医者も増えるかなと思うんですけれど,海外を見て,「めっちゃ進んでるやん!」って思って,日本に戻ってきて,「日本ってまだこんなんなんや,先人たちもしんどかったやろうね,大変やね」とかって慰めてもらう時代になっていそうです.
―― その点,放射線科は世界基準でがんばっていらっしゃるように見えますが.
世界基準という意味では,CTやMRIなどの機械の台数が,日本は群を抜いて多いんですね.そういう意味では外れ値です.人口何万人あたりの放射線科医の数っていうのも,ヨーロッパやアメリカに比べるとやっぱり外れている.なので,世界と横並びになろうと思うとなかなか難しいんです.欧米並みにしようと思うと,実はCTやMRIの台数を減らさなきゃいけない.
――放射線診断技術の進歩発展のためには,台数を減らしたほうがいいんですか.
もうちょっと丁寧に言いますと,たとえば,1万5,000台あるCTのうち,16列未満の,2列とか4列といった,2000年前後に販売されたようなCTが,クリニックでいまだに稼働していたりするんです.どんどん廉価販売されて.月1回しか稼働しないんだけど,「うちのクリニックではCT完備!」みたいなことで置いてあったりします.コンサルからも,開業するならCTがあったほうがいいですよとか言われて,すぐに買っちゃう.
そういうのはなくていいんじゃないか,開業医からどこかに紹介してもらってそこで撮ったらいいんじゃないかと,少なくとも「上」のほうは考えていると思います.すると,患者さんのモビリティをちゃんとしないとだめになります.谷から谷へ,山から山を越えて.A診療所,B診療所,C診療所,それぞれの地区をカヴァーする場所に「共用のCT」を導入するような仕組みがあるのですが,もっと整備されたらいいですね.
―― CT巡回時代というのも来るんでしょうか.
コロナのときも,そういう仕組みを使って検査しようという動きがありました.結局,リース代が高いとかいろいろあって導入されませんでしたけれど.私の知っている限りでは,広島のクリニックが検診車にCTを乗せて,画像をクラウドにあげて,広島市の北の方を巡回して検診をやっていますね.でもそういうのって北海道のほうがむしろ流行りそうですけどね.
患者さんを動かすか,CTを動かすか.寝てる間に病院に着くような車などができれば,たとえばマンガを読みながら,いつの間にか検診施設までたどり着ける.そしたら別にCTは動かす必要がないわけですが.「CTを動かして設置して,管球を温めて動かそう」みたいな発想よりも,「CTをどこかに集めておいて,受診対象者のほうを移動させる」モビリティの発達のほうがいいかもしれません.
――おもしろいですね.
でもそのあたりはもうビジネスの話ですね.おもしろいとは思うんですけれど,私自身はそこをやろうとはしていません.体がもう1つあったらやりたいですけれどね.
<画像を撮った瞬間に構造化される>
もし,私に資産がたくさんあって,仕事とお金が結びつかなくてもかまわない環境におかれているのであれば,1日中AIを作る作業をしていても全然いいです.お礼だって,別に,ダイコン1本でいい.
――おお.
2024年2月に,国立がん研究センターから1つプレスリリースを出しました.神経膠腫という脳の悪性腫瘍について,腫瘍だと思われる領域を精密にセグメンテーションするAIを発表したんですね.がんセンターのPoCをきっかけに,企業がさらに独自に開発を進めて,製品化されました.
その企業に,その疾患の患者の家族の方から電話があったらしいんですよ.「よく作ってくれた,ありがとう」って.「AIを作ってそんな電話がかかってきたのは初めてだ」とその会社の人たちはすごく喜びました.「自分の作ったものが患者さんに届いている,貢献できているっていうのを,初めて強く実感した」と,私たちにも連絡をくれたんです.ぜひ共有したいと.AIを作ることが社会的要請に応えているのだということを実感しました.
―― なるほどなあ.
偉い先生が書いていたことの受け売りなんですけど,私たちがこれまでやってきた画像診断は,科学ではなくて「占い」のような側面も……というか,あんまり定量化できていなかったんですよね.ずっと定性ばっかりしてきた.でも,AIのおかげでやっと定量化できる時代になった.ピクセルがカウントできるようになったおかげで,いろいろなことができるようになったんです.
たとえば,ある疾患では,「画像上こういった写り方で,こういう色をしているならば,そこを手術で全部取りましょう」という治療があります.MRIのFLAIRという撮像方法で高信号域を示すところを取れるだけ取っちゃう,FLAIRectomyをうまくやると,予後がいいんだと.ところが,これまではFLAIRの高信号域をどこまでとればいいのかがカウンタブルじゃなかったんですね.脳外科医同士が情報を共有しようと思っても,何cc取ったんですかと聞かれて,必死でイラストを描いて伝える,みたいな感じでした.それがAIによって,ほとんど一瞬で,体積,形,何ピクセルかというのがぱっと出てくる.
――劇的ですね.AIって,世間一般には「仕事を代わりにやるツール」みたいに捉えられていますけれど,三宅先生とお話をしていると,「よく見せてくれるツール」という表現がしっくりきます.
そうですね.画像診断に関しては,本当に優秀な物差しっていう感じです.FLAIRectomyの範囲をぱっと決めてくれれば,脳外科医も,そこに割いていた時間を次の仕事に使えますから,いいですよね.
2次元の画像から3次元の画像を作れる,なんてのもあります.私たちが扱う・測定する「波」はいくつもありますが,それぞれの波から得られる画像が相互に変換できる可能性がでてきました.この波を測定すればこっちもわかるよ,みたいなことも,もうちょっと発展していくとおもしろいでしょう.
こうした研究に関わっていると,治療の際に参照する指標として画像診断がたくさん使われて,機器がどんどんブラッシュアップしていって,より精密な治療や診断につながるといったサイクルが回りだした実感があります.たとえば脳の場所についても,ここが視床下部でこっちが視床ですみたいなことが,全部瞬時にラベリングできる.画像を撮った瞬間に構造化されるんですよね.
<医者が要らなくなる学問>
医者の役割としては,そこに正しい意味づけができるように手伝ってあげる.構造化したものを意味あるものとして後世に残していくということかなと思います.その作業こそが仕事.これを繰り返していくと,すばらしい研究者たちが,これらを基にどんどん研究を進めていく.そして,脳腫瘍のどこをどのように取ればいいかということが,もっと精緻に決まっていく.私たち画像診断医が,より精密な診断に加わっていくための糸口が,AIのおかげで見つかったということです.
測れるようになってくるといろいろなことが改善できます.無駄も省ける.やらなくていいこともやらなくてよくなる.今までやっていたことが無駄だったとわかることもあるかもしれない.
いくつかのがんは,ここ数十年で原因がわかり,「感染症」になりましたよね.肝炎ウイルスとかピロリ菌とかHPVとか.するとその対策が出てくる.肝臓がんや胃がんなどは,どんどん構造が変わってきていますよね.たとえば脳腫瘍についても,「原因の上流」を制御できるようになればいいなと思います.
医学って,究極的には,発展すればするほどなくなっていく学問です.医者が要らなくなる学問だと思うんです.
――ああ,すごいですね.
私たちががんばることで,自身の仕事がなくなっていくような.発展とともに,その分野はやらなくて済むというのを繰り返してきたのが医学です.コレラを制御するために井戸水の場所を調べる,みたいな公衆衛生の話とか.枚挙にいとまがないですよね.私も,なんとかそういうところに自分のやっていることをつなげていければなと.逆に言えば,「それまでのつなぎ」をしているだけなんでしょう.
――AIで見える化して,それを今まで以上によく見る人があらわれて,もっと深いことをやって,最終的には医療の構造ごと変わっていく.
突き詰めていくとそういう方向になってほしいなと思います.10年後,20年後には達成できればと.
<PACSは電子モルグ>
――三宅先生のお話には,「次の人たちに何かを渡していく」という言葉が繰り返し出てきますね.
そうですね…….そもそも,PACSというもの自体が電子モルグだと思っているんです.
――電子モルグ?
『銀河鉄道999』で,メーテルが自分の遺体が氷漬けになっているところを見るシーンがありますが,まさにPACSっていうのはあれです.何歳のときの自分っていうのが,CTデータで全部,デジタルツインとして残る.ただ,残念ながら,現在の技術では膨大な画像データすべてを後世に残すことは難しいです.テキストデータでないと無理ですね.
そこが今後どうなるかというと,たとえば,マイナンバーカードにテキスト情報だけひも付けて,データは各病院に残す,みたいになるかもしれない.もっとも,墓じまいじゃないですけど,病院がなくなるとPACSもつぶれます.それでもせめてテキストデータだけでも残しておけば,一定の研究はできます.
――なるほど.
これは妄想ですが,たとえば撮影したCT画像を解析して,セグメンテーションした結果だけでいいなら,ごく少量のテキストデータとして残せます.テキスト化しておけば,それは将来復元可能になりますからね.「こういう特性がある人たちだけの画像を集めたい」ということもできるでしょう.
AMEDの事業で,ジェダイ(JEDI:画像関連学会連携会議)というのがあります.7つの学会が画像をクラウドに収集してAIを作ろうというプロジェクトです.発表をみていると,サーバの95%が画像データで占められていて,すごく容量を取っているんですよね.クラウドのおかげでなんとかなっていますが,全部アップロードしているわりには使われなかったりして死蔵されている.お金もかかるしクラウド資源の無駄遣いとも言えます.これを,メタ情報,テキスト情報だけにして,検索をかけて,「こういう疾患はこの病院に何例あって,こっちの大学に何例ありそうだ」という情報が得られるようにすれば,画像全部をクラウドに乗せなくても,検索した対象だけクエリをかけて引っ張ってくればいい.だんだんそういう発想になってきているようです.
――たとえば病理の画像情報も,AIを用いてテキストに自動変換できれば,なかば形骸化しつつある剖検輯報もかなり改善されそうです.
それこそ,Autopsy imaging(Ai:死後画像診断)(注:Iが小文字なのでスモールAiなどと発音する)を行った検体を,剖検の情報と組み合わせることができれば,すごいデータベースができますね.
――そうなんですか.
スモールAi用のAI(人工知能)ができていれば,セグメンテーションをやってくれて,腹腔内遊離ガスが何ccありますとか,出血を疑わせる高濃度が何ccありますとかを推測できる.それを,実際に解剖して,測って,臓器の重さとかを見た情報と,一対一で紐づける.それがやれたら,スモールAiをした時点で,剖検報告書をある程度下書きしてくれる,なんてことも可能です.骨折とか,たくさん検出できますね.この世界でも革命が起こります.死因不明社会に一石を投じますね.
――これも,今いる人の仕事を奪う話というニュアンスはなくて,次の人たちが使いやすいようにデータを整備して残していくという話ですね.
そうです.データを残すにあたり,コストが高すぎるというのが現状ネックなのですが,メタデータだけ保管しておいて,必要な人がその都度必要なデータをゲットできるようにすればいいですね.夢ばっかりですよ.解析したものを残しておくというのは.データはたくさんあります.
そもそも,いつだったかの科学技術白書によると世界の研究領域は900程度で,日本がカバーしているのはそのうち約3割らしいです.いろいろな科学分野がありますけれど.たとえば,サバクトビバッタの研究なんて,国内で2, 3人くらいしかやっていないのではないでしょうか.
――前野ウルド浩太郎さんですね.
そうです.本,出てましたよね.ああいうの,日本ではぜんぜん追いかけられないと思うんですけれど,バッタがなぜ海を渡れるのかとか,なぜあんなに大量発生できるのかとか,学問としてはたぶん,おもしろいはずです.そういった,「手が回っていない研究」も,データさえ残しておけば,未来の研究者がいろいろやってくれるかもしれませんよね.
<クジラ化する日>
――がん診療,もっともっと発展するといいですよね.
とっとと診断学とか制御学を進歩させていってもらいたいですよね.それこそ,がんの画像診断をやらなくてもいい時代になってほしいなと思います.
―― 上流の制御などによって.
そうですね.あとは,がんになりにくい生物というのが知られているじゃないですか.それこそ,クジラとか,ゾウとか.そういうのを参考にして遺伝子に介入できるようになると,がんそのものの診断学は要らなくなるかもと思っています.たぶん,がんを完全に制御するためには,最終的には遺伝子をいじらないといけない.
自然にか,人工的にか,いずれ私たちが「クジラ化」できたら,がんの呪いからは逃れられるかもしれませんね.今はがん治療のために,CTやMRIが診断のきっかけとして頼られていますし必要なんですけれど,「クジラ化」する方法が見つかったら,画像診断はなくなってもいいのかなと.そういう思いでやってます.過渡期の職業として.

