勤務力トレーニング略して勤トレ

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廊下で歩きながらしゃべった臨床医に「最近なんかずっと、普通の文章ってのを読みませんねえ」と言われる。病理診断報告書の話だ。たしかにその科に出している病理診断はここのところ難しいものばかり。希少例、非典型例、かなり込み入った免疫組織化学を行っているので所見もだいぶ長くなる。

「困ったときほど基本に立ち返る」。と、こうやって書くと、絶対にそうなんだろうなという「名言風の圧」をびんびんに感じるわけだが、実際には、困ったときに基本に立ち返っても基本的な解決までしかたどり着かないなんてことはしょっちゅうだ。それでもなお、基本に返れという意味にもとれるが。

基本のところをずっとちまちま試行錯誤したあげくに、けっきょく困り果てて、その領域の専門家に標本を送って見てもらう。すると、「これは珍しいですね……◯◯病院で□□の免疫染色をしてもらいましょう」などという答えが返ってくる。おいおい基本だけじゃ一生診断できないやつじゃねぇか! うーん! まいったな! 「詳しい人に聞く」以外の最適解がなかったってことかよ!

じゃあ毎回詳しい人に聞くのかという話だ。少なくとも、一度聞いてわかった診断については、二度目は自分でなんとかしたいというのが、人情という意味でもそうだし、医療資源の過剰な集中を防ぐ方策としても重要かなと思う。ただなー。ままならないんだよなー。一度問いたことがある「二度目の難問」かと思っていたら、じつは、「一度問いたことがある難問によく似た、別の難問(初出題)」なんてことはしょっちゅうだ。ここんところ、7週くらい連続で、「前の週に経験した珍しい症例にちょっとだけ似ているけれど違う病気」というのを診断し続けているような気がする。いやな鬼ごっこだなあ。走ることをやめるわけにはいかない。太ももパンパンになる。

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