フォーカスがだめなフライデー

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今日はほとんど診断していない。コンサルテーションのフォローアップをしたり研究計画を見直したりしながら、研修医への指導を兼ねて過去の標本を見直す。数年前に比べて今はとにかく造血器系腫瘍のむずかしいのが増えており、みずからの診断能力もがんがん上げていかないと、準緊急的に高悪性度病変を診断することができなくなる。本日仕上がった標本の検鏡はほかのスタッフにほとんどおまかせしてひたすら下地を固めていく。

病理診断のアップデート、というと、イコール「新しい免疫染色の抗体を買うこと」と思っている若い病理医がいる。まあそうやってたずねると「そんなことないですよ!」と言うだろうが、実際にそういう人たちの仕事をじっくり眺めると、「最近ようやくこの抗体でこれらの病気を区別できるようになったんですよ~」みたいなことを息を吸うように述べるので……いやこの表現はおかしいか。述べるんだったら息を吐くように、か。待てよ、ふつうは「息をするように」だな。おまけにこの表現は「嘘を付く」の序詞だよな。いろいろずれてしまった。閑話休題。免疫組織化学ばかりアップデートしても診断のレベルは上がっていかない。そこが病理のむずかしいところだ。検査というのは機器がよくなり試薬がよくなると向上するものなのだけれど、「病理検査」に限ってはそうではない……。うーん。この言い方も厳密にはおかしいか。心機能、呼吸機能、神経生理、超音波、細菌検査、血液、どの部門であっても、機械や試薬だけ新しくしてもあまり意味はない。結局はそれを使いこなす人間自体の能力が上がらないと患者にフィードバックする内容は良くならない。病理だけ特別扱いしてもだめ。今日は日本語能力がいまいちだなあ。フォーカスがちょっとずつずれる日だ。

ちなみにこれを書いているのは金曜日でもない。

学会の委員会にウェブで出席。終わり際に、座長役の先生から、先日私が行ったウェブ講演のお礼を言われる。「見ましたよ、おもしろかったです」。委員会のほかのメンバーがきょとんとする。Google meatの画面にうつる私の顔がはっきりと赤くなるのがわかった。……いやGoogle meatってなんだよ。肉まで扱うのかよ。今日は英語もだめだ。言語全般がだめだ。言語全般? ではフィジカルな機能は大丈夫ということかというと、もちろんそんなことはない。なにもかもだめな日だ。診断件数を増やさなくてよかった。そうやって言い訳をしながら、重要な会議に次から次へと出席していく。こんなにだめな日なのにな。

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