指の角度が違う

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病理医は顕微鏡を使って細胞を見て診断をつける。ただ、近ごろの病理医は、顕微鏡を見ないで診断をする場合がある。どうやるかというと、専用のスキャナでプレパラートをデジタルに取り込んで、PCのモニタ上で見るのだ。プレパラートのことを別名スライドと呼ぶので、デジタルに取り込んだスライドのことを「バーチャルスライド」と呼ぶ。AIだったりバーチャルだったり、病理にも着実に、技術革新の波がやってきているということだ。

拡大・縮小・移動・写真撮影・複数のプレパラートの比較など、いずれもバーチャルスライドで、そこそこ便利に行うことができる。なにより、バーチャルスライドだと、遠方にいる病理医にちょっと細胞を見てほしいというときに、インターネットを用いてすぐに細胞を見てもらえるのでとても便利だ。

基本的には今後30年くらいかけて、バーチャルのほうが主体になっていくだろう。それはそういうものだろうなと思う。

ただ、ちょっと、困ったことも起きている。バーチャルスライドはやはり、肉眼でプレパラートを見るのとは、感覚が少し違うのだ。

一部の細胞がすごく見やすくなることもある一方で、細かいところに目線を少しずつ配っていくような繊細さが少しだけ邪魔されるように感じる。

おそらく、私が顕微鏡に「慣れすぎてしまった」ことが悪いのであって、最初からPCモニタで診断をしている若い人にとっては特にマイナスには感じられないのだろう。

しかしまあ、他人はともあれだ。私にとってはバーチャルスライドはやはり何かが違う。ストレッチプラムと冬木スペシャルくらいには違う。それはけっこう大事な問題なのである。

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