がんは特別な病気である。

10|18

もうちょっとここを開きたいんだけどなかなか開けないなーというフタがあって、たとえば、「人はなぜ『がん』という病気に特別なものを感じがちなのか」というものである。いや別に特別なものなんて感じてないよ、という人もいるだろう。本当は、より正確に言うと、「私はなぜ『がん』という病気に――」である。

私は、がんは特別な病気だと思っている。そして誰かにつねづね、「どの病気もそれぞれ特別だから、どれかだけがとりわけ特別というわけではないよ」とたしなめられたりしている。

複雑系の再編が局所で起こって、全体に波及していく過程でどこかのタイミングでもろもろ破綻して崩壊する病気、というのが、私が考えるがんの概略だ。

そんなの、どの病気にも言えることだろ、と思うかもしれないが、そうでもなくて、ほかの病気は複雑系の回路自体は再編されていないとか、フラクタル次元までは保たれているとか、既存の構築の暴走とかバランスの変化によって引き起こされるものだと思う。これに対して、がんの場合は、複雑系そのものが再編される、もしくは「異なる複雑系が新生する」という点が特異的なのではないかと思う。

しかしこうやって概念だけで思弁的に話を進めていくとだんだん、がんの特別さというのがよくわからなくなってくる。たとえば遺伝子異常に伴う神経変性疾患などは上記の定義にあてはまるだろう。

で、結局のところ、「子どものころから今にいたるまで、何度も何度も目にしてきた病気だから特別なのだ」という、子どもにとってのヒーロー/アンチヒーローとさほど変わらない理由で、私はがんを特別視しているだけなのではないか、ということも考える。

タイトルとURLをコピーしました