油断は禁物 西園寺は公望

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臨床医が学会に発表するときの病理写真、ずーっと前に依頼されていたのだが、あまりに前すぎて、「近くなったらまた教えてください」と伝えてそれっきり忘れていた。さっさと撮れよ、自分! 頭を抱える。

じつは言い訳もある。臨床医が作る学会発表のプレゼン、その内容によって、どういう病理の写真を出すべきかは変わるのだ。だから、臨床医がまだプレゼンを作っていない、抄録すら書いていない段階で、病理の写真だけ撮るというのは、あまりいいことではない。それで私は、「プレゼンできたら教えてくださいな」と伝えて、いったん忘れていたのである。まさか学会のこんなに直前になって「できてますか?」みたいに連絡をいただくことになるとは……。

「細かいことはどうでもいいです、教科書的な写真だけ撮ってくださればいいんで……」みたいなことを言ってくる臨床医もたまにいる。「さっと2枚くらいでいいです」みたいな感じ。そういうオファーならそのように応えるのが正しい商売人なので、私もなるべく気軽に写真を撮って渡すようにはしている。でも、そういう、病理はちょっとでいいと考えていた発表に限って、病理の写真を撮っているうちに主治医が気づかなかったマニアックな珍しい所見が浮き上がってきたりする。

ちょっと仕事に慣れた医者なんてのはすぐに効率を重視して楽をしようとするけれど、そういう研究に限って、大きな何かをとりこぼしていたりするものだ。

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