ジェネラル、スペシャル

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病理医という職業自体がマイナーなのだけれど、その少数民族の中にもさらにタイプ分けがある。「得意とする臓器」みたいなものがざっくりと存在し、「私は婦人科病理のスペシャリスト」「私は消化器病理が得意」みたいな感じで、「分化」しているのだ。

市中病院に長らく勤めている私はたいていの臓器の診断をしてきた。だから何でも見られる……と言いたいところだが、脳神経外科がないところで長く働いてきたため、脳腫瘍の診断の経験数が少ない。

昨今、若い病理医の多くは大学で研修をする。大学には基本的に「ない科」というのがないので、あらゆる臓器の診断をする。となれば、私よりも若者たちのほうがより広い経験をしている……ということになりそうだが、そうもならないのが難しいところだ。大学にいてはほとんど診断する機会のない病気というのがけっこうある。虫垂炎とか、胆嚢炎のような、「患者が急に悪くなるタイプの病気」で、大学のような手間と手続きがかかるところよりも市中の病院でさっとなんとかしてしまったほうが患者にとってメリットが大きい病気は、大学にいてはあまり診断する機会がない。皮膚、炎症なんかもそうだし、じつは胃腸あたりも町の病院のほうが経験豊富だったりもする。

いる場所によって経験する症例に差がある。したがって、「オールラウンダーの病理医」になることは難しい。というか、一人で何もかもやろうということ自体が状況にそぐわない。複数の病理医でネットワークを作り、得意・不得意を互いに補い合えば、ひとりの人間が何もかもできるようにならなくても、診療は進んでいくから、それでいいのだと思う。

とはいえ、心のどこかに、「なんでも見られる病理医」に対するあこがれみたいなものは、ある。次の職場ではまたちょっと違った経験をしてみたいなあ。

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