がんは他の病気とどう違いますか

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近頃はいろんな人に、「がんとはどんな病気でしょうか」というのをたずね続けている。

そういうことをたくさんやると、ときおり、質問を投げ返されたりもする。

「病理医からみると、がんはどんな病気ですか。ほかの病気とどう違いますか」

うっ。

問うのは簡単だが答えるのは難しい。

そうだなあ。

病理医にとってのがんかあ。うーん。

「そうか、そうじゃないかが、わりと決められる病気」かなあ……。

がんのときは「がん細胞」が出現する。

がんでないときは、「がん細胞」は出ない。

何をあたりまえのことをトートロ言っておるのかと怒られるかもしれないが、これは決定的だ。

たとえば風邪を引いた人に「風邪細胞」は出ない。

心筋梗塞になってしまった人に「心筋梗塞細胞」は出ない。

糖尿病に「糖尿病細胞」は出ないし、骨折に「骨折細胞」は出ない。

ドラッグ中毒の人に「中毒細胞」は出ない。

しかしがんの人には「がん細胞」が出る。どこかには必ずある。それが検査でつかまえられるかどうかという問題はあるにしろ。

ほぼすべての病気は、もともと体の中にいらっしゃった(敬語)細胞の、数とか割合とかがいろいろ変わる。町の人口が増えたり減ったり、男女比や子ども・老人の割合が増えたり減ったりするように、構成が変化したり、ダイナミズムがおかしくなったりする。

しかしがんの場合はちょっと違う。がんは「それまではいなかった細胞」が出現して増える。

町に見慣れないチンピラがやってくる。ヤクザが闊歩する。ゾンビ。ゴジラ。

これががんの特殊性ではないかと思う。私たちは、「がんか、それ以外か」という「仕分けの気持ち」を、いつも心のどこかにひそかに抱えている。

「それって治療とか患者のつらさとか一切関係ないよね?」と、問い詰められるかもしれない。大正解である。検査・診断という側面においてがんは極めて特殊な病気であるが、逆にいえば、治療・維持管理という側面においてはがんはそこまで特殊ではない……のかも……しれない。

うーん。もっとインタビューしたいな。

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