薬屋さんがやってくる

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製薬企業の営業さん、あるいはMRと呼ばれる人たちは、薬を処方する臨床医のもとにべったりと張り付いている。ただし、薬を使ってくれ使ってくれと連呼しても、効果はない。現代の医者はエビデンス至上主義で、情に訴えかけてもたいして効果はない。そこで彼らは、臨床医の代わりに勉強のための論文を探してきただとか、ウェブ講演会の無料参加用QRコードを持ってきたなどといって、臨床医が薬に関係のある領域の勉強をしやすいように手伝いをする。

新しい薬というのは、勉強しないと怖くて使えないものだ。だから、勉強をさぼるタイプの医者からは、新しい薬が処方されない。そこに介入するのが営業でありMRのお仕事なのだろう。

病理医のもとには彼らはやってこない。病理医は処方をしないからだ。病理医だって薬の勉強はするのだが、それを手伝ってはくれない。それはそうだろう、営利企業のやることにはすべて理由がある。

……ところが。

最近たまに、病理医のもとにも、勉強会のお知らせを持ってきてくれる人がいる。我々は、処方には携わらないが、「処方に必要な検査」の一部に関わるからだ。病理医が薬の勉強を怠ると、ある薬を出すために必要な検査が適切になされないということが起こる。

そこでちかごろの製薬会社は、病理医をも教育しようとしはじめている。これに対していろいろ思うところはある。どんな臨床医よりも勉強する時間が豊富にある病理医が、自分で論文を集めもせずにもらったものを唯唯諾諾と読んでどうするのか、と感じる。

それはそれとして、人から教えてもらった論文は、自分で集めた論文とは微妙に味が違う。「営利企業の都合というスパイスによって味変されている」ような感覚がある。結局のところ、製薬会社が持ってきたものもこなかったものも、両方読んでなんぼなのだろう。

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