ぜんぜんわかんない

19|12

病理診断がわからない。「皆目わからない」というのはわりとめずらしいのだが今回はほんとうに手がかりがない。理由はいくつかある。ひとつには「がんではないから」だ。

逆にいうと、「がん」であれば、病理診断が全くわからないということはまずなくなる。「がん」というのはある種の、「形の異常を伴う病気」だからだ。それは細胞レベルの、ミクロの、非常に細かな違いかもしれないが、しかし、ミクロであってもなにかの形が変わっているならば、それは病理診断によって明らかにすることができる。

けれども、「がん」でない病気の中には、細胞をいくら見ても変化がほとんど出ないものもある。液性の異常というか、シグナルの異常というか、そういったものだと、細胞の形も臓器の形も一切変わらないままに病気になることがあって、そういうのは、病理診断はわりと苦手にしている。

とはいえ、そういう、「細胞のかたちをほとんどいじくらないタイプの病気」であっても、普通はなにか、顕微鏡をみると、どことなく、わずかではあっても、変化が出てくるものなのだ。痕跡を隠しきれないというか、空気が変わって見えるというか、説明はむずかしいのだけれど、全く変化が起こらないなんてことはめったにない。

そして、今回は久々にこの、「全く変化が起こらない」パターンなので、困っている。うーん。絶対に病気はあるんだけどな。なぜって、この患者はもう、亡くなっているからだ。結果はあきらか。しかしその原因がわかり切っていない。

それを調べるために延々と患者の細胞を見ているのだけれどなかなか手がかりにたどり着かない。困っている。そもそも臨床医が困ったから私に依頼が来たのだけれど、その私もわからないとなると、もう誰もわからない。それはあずましくない(北海道弁)。

もう2週間くらい悩んでいて……あっ?

ああ、なんか、ちょっと待てよ、そういうことか? たった今、ぜんぜん別のヒントを見つけた。それは普段私たちがあまり見ようとしない部分にある。うーん。だって普通は細胞見ようと思うじゃん。細胞のないところを見ろってか。なるほどな。ああー。今度はわかるかもしれない。今度は見えるかもしれない。

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