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うちの病院の研修医たちは私に対して特段なんのオーラも覇気も感じていないと見えて、しょっちゅう電話してくる。
こないだなどは、「これから勉強しに行っていいですか!」などと言う。真っ昼間に。
「お、おう、来たまえ、北前船、」の最後のギャグをしゃべっている最中に電話が切れる。やりきれない。
果たしてやってきた研修医はいきなり学生などを連れてきている。
学生を連れてくるなら連れてくると言っておいてほしい。
しかしまあそういうコミュニケーションもあるよねと思う。さて、君らはここで何を見たいのかと聞くと、特に考えていないという。いつもなら自分が担当した患者のプレパラートを見たいと言われるのだが、今日は何も考えていないという。
なにかおかしいなと思いつつ、まあ、勉強だけしたかったのだけれど具体的に何を勉強したいとまでは考えていないというのも人間として極めて普通の感覚だよねと思う。さて、見学にやってきた学生にたずねる。どちら志望ですか。すると外科だと答える。それも呼吸器外科に進みたいという。学生にしてそこまでしっかり希望が決まっているというのも若干めずらしいほうで、少し驚く。小説『泣くな研修医』に出てくる医者にどことなく似ているなと思う。
そういうことならば、ということで、呼吸器外科っぽい症例を探す。オンゴーイングな症例だったら熱意も高いんだけど、今こうしていきなりこられて何を見せたらいいかな……さっき問い合わせが来た学会発表用の症例というのを数日後に準備する予定だった、せっかくだからあれを今準備してしまおうか。その様子を一緒に見てもらおう。
いろいろ考えてまずはPC上で勉強スライドを簡単に見せる。それから過去のプレパラートを6例分くらい引っ張り出す。さすがに研修医に手伝ってもらう。急にやってきたのだからそれくらい手伝ってもらう。見学の学生にやってもらうのは申し訳ないので集合顕微鏡の前で少し待ってもらう。あとからやってきた研修医がいつの間にかそこに加わっている。どうも学生のお昼ごはんの準備ができたよと呼びに来たらしい。牧歌的である。あまりここで長い時間私が病理の説明をして昼ご飯が食べられないのもかわいそうと思う。判断に迷う。鱗滝さんに殴られる。
さあプレパラートを見せよう。そうしたら研修医が口を開く。学生が何か伝えたいことがあるのだという。はいはいなんでしょうか。サインください。えええ。なんだフォロワーかよ。だったら先に言えよ。もう時間がない。サインはする。あんまり症例が見せられなかった。まあこういうコミュニケーションもあるよねと納得する。将来は佐藤か、西桜寺か、いずれにせよ、のびのびできる場所でがんばってほしい。